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演技派な甥とアレが怖い姪

新年早々のお話。
兄と、奥さんと、甥っ子(3)と姪っ子(1)が実家に挨拶に来た。

去年の5月に法事で会ったときは、甥っ子はまだ人見知りでこちらに近寄らなかったし(YouTubeを見せてあげる時だけ寄ってきた)、姪っ子は抱っこされた赤ちゃんだった。

しかし子どもの成長は早い。早すぎる。
甥はコミュニケーションが取れる状態になっていたし、姪はしっかりと歩いていて赤ちゃんではなかった。

たまにしか会わないから誰だと認識されているかは定かではないが、害のない人物だとは認識されたようだ。しばらく同じ空間で過ごしていると、一緒に遊べるくらいに距離が近づいた。

甥はとにかく食欲旺盛で、ウチに来るなりバナナを2本食べ、ミカンを食べ、お菓子を食べていた。しかし兄はお菓子(甘いもの)には厳しいようで、食べすぎるとSTOPを出す。兄の奥さんも「パパがダメならダメ」のスタンス。それでも食べたい甥ちゃんは、外野である母や私からの「食べさせてあげなよ」の鶴の一声を引き出すべく、訴えの視線を投げかけてくる。何も言わずに、じっと、愁いを帯びた瞳を向ける。母へ――しかし母は兄の教育方針に従うべく、知らんぷりを決め込む。次はわたしへ――痛いほどの視線が突き刺さる。何も言わずに見つめるほうがより効果的な訴えになることを彼は知っている。何という演技力。いやプレゼン力といったほうが正しいのか?だがわたしはあくまで外野の人間だ。無視を決め込んだ。それはつまり、この空間に彼の味方はいないことを残酷にも表していた。

・・・

・・・・・

・・・・・・・

うわああああああああんんんん!!!!

凄まじい轟音ばりの鳴き声。
彼が打った次の手は「泣き」である。ウソ泣きと分かっていても、とにかく破壊力は抜群。それにウソだけど本気泣きだ。

しばらく炎を吹くように叫び散らしたが、誰も彼に「食べていいよ」の許可は出さない。すると彼は叫び声の間に間に、

チラッ

と周りを見渡す。

あれ?

と顔に書いてある。
「まだ足りない」と判断したのか、再び泣き始める。だが最初のそれよりは幾分も勢いは落ちており、そのことが「ウソ泣き」を証明していた。もちろん大人の我々はそんなこと百も承知であった。その伝家の宝刀泣き落としが効かないと悟った時の、甥っ子ちゃんの「あれ?」の可愛さと言ったらもう。

結局ママ(奥さん)の決して来ることはない「また後でね」に丸め込まれ、甥っ子の泣き落としショーは幕を閉じた。

それからわたしは甥っ子と取っ組み合いのじゃれ合い(と言いつつ容赦せず投げ飛ばすわたし)をしていると、リビングから一番遠い部屋の方から、

ぎゃあああああああんんん!!!!

と姪っ子の悲鳴が。あれは単に泣いているわけではない。ママの姿が見えなくて、涙ながらに探し回る健気な娘の泣き声とは違う、何かに怯える訴えを含んでいた。

怯え切った姪っ子がリビングに飛び込んできた。

うんばぁ、うんばぁ~

姪は泣きながら謎の呪文を唱えている。恐怖におびえて「くわばらくわばらぁ」と唱える老婆にも似た姿であった。

奥の部屋で一体何があったというのだ。(わたしの)母がついていながら。

すると母がへらへらしながら「〇〇(姪)ちゃん、ルンバこわいんやったね」と言うと、「そうなんですよ。なぜかルンバを異常に怖がるんですよ」と兄の奥さんがまるで怪談を語るように言った。

母は奥の部屋に置いてあるルンバを良かれと思って起動させた。姪っ子ちゃんに色んなものを見せて、色々と感じてほしいと、そう祖母として願ったのかもしれないのだが。

うんば、うんばぁ~

まだ姪は唱えている。

確かに幼子から見ると、ルンバは黒くて無機質だし、海底に潜むオウムガイのヒゲのようなホウキ部分は気持ち悪いし、機械音を立てながら予測不能な動きをするし、結構こわい存在なのかもしれない。

しかし、死に際を見たような姪の怯えは、叔母からするととてつもなく愛おしかったし、いとおかしかった。

わたしも小さい頃は訳の分からないものが好きだったり、嫌いだったりした。例えば洋服や布団についている洗濯表示なんかのタグ。つるつるして気持ちいいから寝るときいつも触っていた。ひな人形は怖くて目を合わせられなかった。あとドラクエで記録が消えてしまった時の音楽に異常に怯えていた。

そういうものだ。

甥と姪の、感性が壊されることなく、すくすくと育ってほしいと、叔母は思う。

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