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【鑑賞ログ数珠つなぎ】セールスマンの死

ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:舞台『命、ギガ長スW』

https://note.com/marioshoten/n/n1538b8d50354

【数珠つなぎ経緯】

先月までの舞台が終わりに差し掛かろうというとき、「終わったら何かしなきゃ!!」の衝動に駆られ、スマホでたまたま目に入った『セールスマンの死』のチケットをポチっていた。そう、本当にいとも簡単に、ちょっとした日用品を買うくらいのノリでポチった。チケット代は10,000円。安くはない。むしろ高い方。わたしはたまに、KICK THE CAN CREWの「ナニカ」の歌詞(何かしなくちゃ何かをしなくちゃ)が呪文のように襲ってくる時がある。その時も、きっとそういう気分だったのだ。

名前を言えば大抵の人が知っている豪華なキャスト。一方で、わたしが舞台で見るのは初めての方々ばかり。
作はアーサー・ミラー、世界中で上演されている不朽の名作・・・らしい。海外作品や古典モノに苦手意識があるわたしは、普段だったら見なかったと思う。だけど、勢いがあったから、何かしなくちゃと焦っていたから、あとチラシがかっこよかったから、そんな軽率な理由で観ることも実は往々にしてある。

パルコ劇場は2回目。広いけれどどの席からも観やすい。しかもめちゃめちゃいい座席だった。開演前、後ろの座席の二人組の「文学座や無名塾でもやってたよね」なんて話が聞こえてきて、きっと作品のファンもいるんだろうなと思っていたら、斜め前のご婦人の待ち受け画面が林遣都くんだったりして、舞台に足を運ぶ動機は十人十色で面白いなぁとしみじみ。

そして一番気になっていたのが隣の席の恰幅のいいおじさん。仕事を抜け出して観に来たような装いで、意気揚々と楽しみにしているようでもなければ、誰かに連れてこられた感じでもない。どういう経緯で来たのか推測してみたが全く想像つかなかった。

【あらすじ】

(HPより引用)
舞台は1950年代前後のアメリカ、ニューヨーク。かつて敏腕セールスマンとして鳴らしたウィリー・ローマンも、もう63歳。
得意先も次々と引退する中、思うようにセールスの成績も上がらない。かつてのような精彩を欠き、二世の社長からは厄介者として扱われている。
それでも地方へのセールスの旅を終え、いつもの通り帰宅する。
妻のリンダは夫のウィリーを尊敬し献身的に支えているが、30歳を過ぎても自立出来ない2人の息子達とは過去のある事件により微妙な関係だ。
息子たちへの不満と不安もウィリーの心をつぶす。
セールスマンこそが夢を叶えるにふさわしい仕事だと信じてきたウィリーだが、ブルックリンの一戸建て、愛しい妻、自分を尊敬する自慢の息子、一度は手にしたと思った夢はもろくも崩れ始め、全てに行き詰まったウィリーは、家族のため、そして自分のために、ある決断を下す・・・・・

【感想(ネタバレあり)】

幕が上がった瞬間、

「勝った!!」

と部外者ながらに思った。

サイドからの照明にパァーンと抜かれた、スーツにハットで大きなカバンを持って立っている段田さんのカッコよさと言ったら!!今でも目をつぶれば写真のようにそのド頭のシーンが蘇る。カッコイイ。本当に。

しょっぱなから頭ガーンやられて、少し冷静になって舞台上を確認。
袖と呼ばれる舞台の両サイドにある黒い幕は取り払われ、照明の機材が丸見え、舞台上は真ん中にあるひと際大きい黄色の冷蔵庫以外は素舞台と言ってもいいくらい何もない。頭上に2本電信柱がぶら下げられている。あぁカッコイイ。

それからおそらく幻覚?イメージ?現世の存在なのか空想の存在なのか色んな人が、段田さん演じるウィリーを無視するかのように、はたまた嘲笑うかのように、入り乱れて交錯する。幾度となく現れる自転車に乗った前原滉さん面白かったね。

それからウィリー家のキッチンや息子たちの寝室、ガーデンなどシーンごとに造られた可動式のセットが入れ替わり立ち替わりで登場する。漫画のコマ割りっぽいなぁ、と思った。いわゆる見せ転換なので集中が途切れないし、次はどんなセットが出てくるのだろうという楽しみも持てた。

なのに。

隣のおじさんが寝始めた。寝息とイビキの中間地点の呼吸を響かせて。作品に没頭していた最中だったから、本当に苛立ってしまって、「一万円払え!」と言いたくなった。しかも1回や2回ではない。気を抜くと寝てやがって(口悪くてすいません)、観劇を阻害してくる。この被害がなければもう何倍も楽しめたと思う。本当に運が悪い。

ストーリーはあらすじ通り進んでいき、ウィリーのサラリーマンとしてのプライドと責任、狂気と妄想に苛まれ、壊れていく様子が、悲しいほど響いてくる。そして落ちぶれながらもどうにか親の期待に応えようと自分を鼓舞して挑むも、それすら無残に打ち砕かれる長男ビフの葛藤。演じる福士誠治さんがいいのよねぇ~。ラストの父親への必死の訴え、力強いのにそれ以上に切なくて、苦しくて、どうにか救われてほしかった。

ほぼ出ずっぱりで膨大なセリフを吐き出す段田さんマジで凄い。保奈美さんも美しくて気高くて「華」って感じなのに夫と共に疲弊していく雰囲気醸し出していたし、林遣都くんもチャラ男が似合っていて体のこなしが軽やかだった。実は鹿殺し時代から密かにファンの山岸門人さんも嫌味な2世社長も真面目な給仕も見事だった。
全員褒めるの大変だからこのくらいにしておくけれど、とにかくよかったよかった。演出含めて、観てよかったと思える舞台だった。

隣のおじさん除いては。。。

いい作品に出会える確率と同じで、こればっかりは運だけど。

「サラリーマンの寝」を観に来たわけじゃないから!
寝てもいいけど静かに寝ておくれ、頼むから。
あとスマホをブーと振動させている人もいたな。
カバンに入れていても振動は伝わるから。
それもやめてくれ、頼むから。

【次の作品】

舞台『奇蹟』か映画『ドライブ・マイ・カー』か、他かも。

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