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机の下に寝ころんで。

菌の温床。

おそらく。

いつもは足を置いているところ。
正確には足の裏をこすりつけているところ。

でもどうしても、そこに潜り込みたくなった。

理由はきっと、隠れたかった。

何から?何かから。すべてから。
今のわたしを取り囲むものから逃れたかった。

かくれんぼにしてはあまりにお粗末で、避難というにも甘さが見える、そんな机の下。もう大きくなったわたしの身体を覆い隠してはくれないし、安らぎも与えてくれない。

ただ机の下に丸めた上半身だけつっこんで、ラグの毛並みをじっと眺めたり、机の裏に貼られた「H」と書かれた謎のシールを見たり、落ちている毛を集めてみたり、ちょっとだけスケルトンになっているパソコン本体の内部を覗いてみたり、した。

なにをやってるんだろう

と思うことを、あえてやっている。

生産性のないその時間。ひどく自分が滑稽に見える。だが一方でひどく真剣でもある。何もしないことを一生懸命にしている。何か見つけて感じようと必死になっている。誰にも見られず、邪魔されない場所。

机の下に寝ころんで。

雨の音だけが部屋中に響いている。

あの沼のほとりで出会ったカエルは元気かな。あの山の神社に置いた石はまだあるかな。実家のベランダの洗濯物は濡れてないかな。雨のルアンパバーンのマーケットでお腹壊したな。カンタはサツキにボロボロの傘を貸してたな。

雨にまつわる事象を思い出しながら、何の進展もない体勢を維持している。

なんだか眠くなってきた。隠れたまま寝ちゃう子どもみたいに。
目をつぶってみる。雨音が一層ハッキリと聞こえる。

なにをやってるんだろう

また思った。

机の下に寝ころんで。


・・・・・


腰がめちゃめちゃ痛い。

しばし寝ていた。

もう誰も探しに来てはくれないけれど、もう机の下にすっぽり収まることはできないけれど、少しのタイムスリップを味わった気分。もしくは小人になった気分。

子どもの頃、わたしは机の下に隠れただろうか。寝ころんだだろうか。

記憶はない。

ないけれど、不思議とノスタルジー。

ノスタルジア。

机の下はノスタルジック。

いざなう。


机の下に寝ころんで。

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