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【2021/10/19】読書の秋:グランドマンション

『グランドマンション』折原一

9月頃にミステリ熱が上がった時期に買った本である。初めて買う作家さんの本。本屋でのポップが気になったので手に取った。

上記のnoteに挙げた『神様の罠』と一緒に購入したが、読むのが遅くなってしまった。正直、読み始めは好きになれなかった。登場人物が陰気だし、展開が重たくて、すんなり馴染まなかった。そのうち主流がNetflixに移行して、読んでもないのに本棚に収まっていた。

とは言え、読まないのはモッタイナイ。選んで買った本に責任を持つべきだ。そう思って、ちょっとした電車移動の時に持って歩くことした。持っていれば読む。スマホをダラダラ眺めるより、何倍も有意義な時間になる。

内容はというと、「グランドマンション」という名の集合住宅で起こる、住人たちのドタバタ劇。それぞれの事件には現代の問題が散りばめられている。ミステリーなので死人も出れば犯人もいる。構成自体はエピローグを入れて全8章、短編集のような読み口でお迎えされるのに、次第に長編を読んでいるような気持ちになってくる。

それは住人たちを把握していくから。〇〇号室に住んでるAさんとその下の階に住むBさんのイザコザに、Bさんの隣人Cさんが絡んでくる話があったとしたら、次の話ではCさんが主軸を取っていて、次第に全容が見えてくるというつくりなのだ。住人たちの特徴、背景などが理解でき、いわゆる相関図らしきものが見えてきてから、この物語は一段と面白くなる。(もちろん死んだり退去したりで次第に減っては行くが)

そして一番の面白さはもちろんトリック。1話を読み終えたとき、思った。

あ、そうか。これミステリーだった。油断してた。

買った時のミステリーへの熱量がスッカリ冷めていて、そもそも何が気に入ったか覚えていなかったので、どう読み進めていいか準備が出来ていなかったのが、気持ちが乗らなかった一番の原因。

1話でスッカリ騙されて、読み返して、トリックをおさらい。次の話に入る前は「騙されねえぞ!」と意気込んで読み始める。慎重に、注意深く…

なるほど、この折原さんはこういうスタイルで来るのね。

とようやくグランドマンションを受け入れる態勢が整ったのである。

いや、読む前に整えとけよ!

その通りである。自分で自分を叱るしかない。

恋愛なら恋愛の、ミステリーならミステリーの心構えをして読まないと面白さに気付けない。もしくは気付くのが遅くなってしまう。

映画などでビジュアルにつられて見に行ったら、内容思ってたのと違うやん!っていうやつ。note記事で読んだが、開学作品の日本版だとビジュアルが全然違うことがよくあるらしい。タイトルが異訳されている時もある。

読み手(観客)側も心構えや準備が必要だと思った。事前情報なしに見て楽しめる作品もたくさんある。ポスターや告知動画に惹かれて見に行ったら大正解だったものも多い。だが本に至っては特に、裏に書いてあるあらすじやせめてジャンルは理解していた方がいいのではないかと感じた。私個人の感想だけど。

そういうわけで、徐々に面白くなり、スピード感が増し、折原作品の読み方も理解できてからはあっという間だった。叙述トリックが得意とのことで、先入観を持たず、そして言葉ひとつひとつを取りこぼさぬよう読み進めたが、見破れたのは2つくらいだった。しかも1話の中の一部分だけ。騙されたけれど、答え合わせが楽しかった。

それぞれの事件の根底には、人の悪意や卑しさみたいなものがあるから、読んでいくと悲しかったり空しかったりする。だけど、その中でもホッコリしたり、笑えたりする部分も織り交ぜてあって、最後は大団円感のある終わり方なので、読後感が良かった。


読書の秋。
次は何を読もうかな。

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