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【鑑賞ログ数珠つなぎ】目黒シネマ

先日、ようやく目黒シネマに行った。ようやくというのは「行こう行こう」とことあるごとに思い立つのだが、実行に移すことがなかったから。

目黒シネマとは1枚の入場券で映画を2本観れる「2本立て」営業の映画館で、邦画・洋画問わず、ハリウッド大作からアート系作品まで幅広くセレクトされた各ジャンルの面白い映画が、週替わりで上映されている。

http://www.okura-movie.co.jp/meguro_cinema/about.html#APAGETOP

2本観る体力と時間が思いのほか作れなくて、しかも2本とも高い熱量で観たいと思える作品が上映されているチャンスというのは意外となかった。

だが、今回、上映作品とは別の、モチベーションがあった。
トークショーである。

その週は「市川準監督特集2021 ~準と一心~」で、上映作品は『黄色い涙』と『トキワ荘の青春』のふたつ。最終上映の終わりに、市川準監督ファン(?)の岩井俊二監督が登壇。初めて生で見たんだけどめっちゃカッコいい…!
ラフに着たパーカーが抜群に似合ってて、着飾ってないのにちゃんと決まってる、みたいな。

岩井俊二監督

岩井監督は市川準監督好きもさることながら、もともと漫画家志望だったそうで、『トキワ荘の青春』にとても共感されていた(黄色い涙にもニノ演じる漫画家志望の登場人物がいる)。その他、影響を受けた市川準作品のことや好きなシーン、自分との類似点など、かなり話は多岐に渡ったが全部興味深かった。でも、あんまり覚えてない。才能についてのお話で、「異色で登場したものが気付けば普通に馴染んでいく」と言っていたのは印象的だったし、すごく納得した。

クリエイティブに携わる誰もが、見たことないモノ、新しいモノをつくりたいし生み出したいと思っている。けれどそれは並大抵のことではないし、そのために今ある面白いとされているモノの仕組みや理由を理解しなければならない。型破りは型を知らないとなれないし、異色も同色(今あるもの)を分かってないとつくれないはずだ。

『トキワ荘の青春』に出てくる漫画家たちは仲間と一緒にその新しいモノを生み出そうとした。実際生み出しただろう。だけどいくら仲間と切磋琢磨しながら共に頑張っても、結局売れるのは選ばれた「誰か」。その苦しい厳しい環境でもお互いを尊重し合い、励まし合い、支え合う・・・だけど、夢破れて去っていく人ももちろんいる。そんな夢と現実が毎日のように襲ってくる中で、でも描くことが好きだから、描かずにはいられないから、毎日机にかじりついて。

岩井監督も話していたけど、赤塚不二夫さんの映画での描かれ方がとても素敵。演じた大森嘉之さんも素晴らしかった。同時代にトキワ荘にいたメンバーの中で遅咲きだったのが赤塚さんで、先に売れた石森章太郎さんのアシスタントをずっとやり続けていたけれど、最後は石森さんが編集者に言った一声(「あいつこんなの描けますよ」的なアシスト)がキッカケで売れたという、胸アツエピソード。赤塚さんはそういう経験があるから、タモリさんを見込んで面倒見たのかなぁなんて、そこまで思いを馳せていた。

夢追い系の作品は、今も夢追い系の自分にとっては痛くもあり、痒くもあり、共感しまくりであり、自分と比較して絶望もあり、見たいけど見たくないという感覚。

昔の作品だとよりノスタルジーが強くなり、目黒シネマのレトロな雰囲気とも相まって、なんか涙が流れていた。だけど主役の寺田ヒロオを演じたもっくん(本木雅弘)の変わらぬ美しさには、逆に笑いが出た。寺田さんはトキワ荘に長くいたので、兄貴的存在で後輩たちを見守ったり金を貸したりと優しい人物である一方で、いくら編集者に説得されても描きたくない漫画は描かず信念を貫く頑固者でもあったらしい。だけど、日の目を見ずにトキワ荘を去ったらしい。これも泣ける。

観劇前

トークショーの終わりに、司会の方が「出演者が見に来ています!」と客席を指し示した。なんとわたしの席の後ろにつのだじろう役の翁華栄さんが、最後尾座席に石森章太郎役のさとうこうじさんがいらっしゃった。

上映後からトークショーまでの空き時間、わたしは友人とチラシを見ながらこれが誰でどの役で、この人はトキワ荘に住んでたとか出てったとかずっと(たぶん見当違いなことを)くっちゃべっていた。それには理由があって、ベレー帽率が高くて、誰が誰かよく分からないシーンも確かに多かったのだ。今メディアに出ている阿部サダヲさんや古田新太さんは分かるが、初めて見る方も多く出ているし、登場人物もそこそこ多いため、理解が追いつかなかったのだ。翁華栄さん、ごめんなさい。

とにかく、作品もトークショーも最高に最高だったので、また目黒シネマには行かねばと思っている。そして実は見たことのない岩井監督作品を早急に観なければと焦っているのである。

次は『リップヴァンウィンクルの花嫁』について書きます。

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