「フィンランド教育は素晴らしい」という幻想2

2018年12月2日 

ユバスキュラに来る前から、わかってはいたのだ。

「フィンランドの教育制度はフィンランド国民の多くにとって素晴らしいというだけであって、それが全世界の人々にも有効というわけではない」
「フィンランドのPISAランキングはもはやトップではないし、フィンランド政府も教育に対する予算を大幅にカットしたし、3年前交換留学中フィンランド教育を学んでいた時と今とは状況が何もかも違う」
「素晴らしいと言われるフィンランド教育だって、改善点も問題点もある」

わかっては、いたのだ。頭では。

正直、それでも「フィンランド教育は素晴らしい」という『幻想』を拭い去れなかったのだと思う。どこか頭の片隅で「フィンランド教育は素晴らしい」んだ、って思い込みたかったのかもしれない。フィンランド教育は「世界一素晴らしく」「落ちこぼれを生まない」「思考力と想像力を育む」「理想的な」教育制度なんだ、って。

そう思わなくちゃ、思い込んでいなくちゃ、私がフィンランドに再び戻ることを正当化できなかった。「フィンランドの素晴らしい教育制度を学びに修士に進みます」ってことに、意地でもそういうことにしておかなくちゃ、日本の心ない大人たちの「そんなことして何になるの」という冷たい視線をはねのけられなかった。

この2週間課題に追われるなか、フィンランドの教育制度に関する論文をいくつか読む中で
頭の片隅に最後まで残っていた『幻想』は少しずつ、音を立てて、崩れていった。

いや、この2週間だけが原因ではないのかもしれない。今までの「フィンランド教育って正直どうなのよ」という疑念が、この2週間課題のエッセイ等で文章化されていく中
それらが科学的な研究論文等によって強固に理論づけられ
その結果、『幻想』の崩壊につながったのかもしれない。

フィンランドが積極的に導入したICT教育は、結果子どもたちの学力差を生んでしまった。
フィンランド教育の目玉である教科横断型学習は、ひとり親世帯の子どもたちや難民・移民の子どもたちにとっては大きな負担となっているようだ(教科横断型学習は生徒の自主性にゆだねられる部分が大きく、それで足りない部分は親の支援によって補填されていたということのよう)。
親の学歴と子どもの学力との相関はフィンランドにおいてもある。
フィンランドにいるロマやジプシーの学力差や学校中退率は大きな問題になっている。

本当にフィンランドの教育制度は「落ちこぼれをなくす教育制度」と言えるのだろうか。

(参考文献など)
Helakorpi, J., Lappalainen, S., & Mietola, R. (2018). Equality in the Making? Roma and Traveller Minority Policies and Basic Education in Three Nordic Countries. Scandinavian Journal of Educational Research, 0(0), 1?18. https://doi.org/10.1080/00313831.2018.1485735
Ouakrim-Soivio, N., Rautopuro, J., & Hilden, R. (2018). Shadows under the North Star : The inequality developing in Finnish school education. Nordidactica : Journal of Humanities and Social Science Education, 2018 (3), 65-86. Retrieved from http://kau.diva- portal.org/smash/get/diva2:1257214/FULLTEXT01.pdf
Yle(2018), Finland’s digital-based curriculum impedes learning, researcher finds, retrieved 2018.11.30
https://yle.fi/…/finlands_digital-based_curriculum…/10514984

そんな、皆様からサポートをいただけるような文章は一つも書いておりませんでして…