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【番外編】君を描けば嘘になる

才能を持たない側の挫折と苦悩が一貫して描かれることで、持つ側の人間の覚醒がより際立たされていること。

「覚醒」と綴られている、人がある瞬間突然得られる類の気づきについても巧みに表現されていること。

このようにして、人の内面の繊細な部分を、ここまで緻密に丁寧に表現してくれる作家を、僕は未だ彼以外に知らない。

ゆえに彼の作品は、僕がレッドスワンに出会った10年ほど前から変わらぬ衝撃と共感を与え続けてくれるのだろう。


時の移ろいを複数人物の視点から綴る能力に長けている彼の作品は、僕らを深い没入体験へと誘う。

僕らは、それぞれの人物の、その場そのときの主観に、その身を重ねながら頁を進めていくことで、描かれている人物たちが物語で得ていく経験を、さも現実かと勘違いしてしまう程度で擬似的に体験させてくれる。

そしてそれは、人々が小説を読む理由そのものであると言っても過言ではないと思う。


更新した久々のnote記事は、活字に触れたことでどうしても書きたくなってしまった、大好きな作家さんの本の感想でした。

今季初めてのホーム遠征で、名古屋から横浜に向かう昼便の中という絶好の機会、時間をこの本に充ててよかったと、心から思います。

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