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「異国の風に誘われて・・・」

 港町、横浜。

そこが私の大好きな街です。

今では国際都市として誰にも知られるこの街も、

江戸時代まではわずか50世帯ほどの寒村に過ぎませんでした。

  その小さな村が突然歴史の表舞台に躍り出たのは

1854年のこと。ペリー来航によって開国を迫られた江戸幕府は、

諸外国に向けて遂にその門戸を開く事にしました。

その取り決めをする場所として選ばれた場所、それが

横浜村だったのです。


 「日米和親条約」が締結された、その記念すべき日の様子が

描かれた一枚の絵が、現在海岸通りにある、横浜開港資料館

にて展示されています。

 武装した兵隊達と共に上陸するペリーの堂々とした姿、

その様子を遠目から驚きと好奇の目で見守る地元の村人たち

・・・さらにその絵の中で注目して頂きたいのが、右側に描かれて

いる大きな木、玉楠の木(たまくすのき)です。

 この木は何と、資料館の中庭の、当時とほぼ同じ場所に

今でも立っています。

 

 この場所を訪れて、大きく枝葉を広げたこの玉楠の木を

見上げるとき、私はいつも思います。開港以来160年もの長い

年月を歴史の生き証人として生き続けて来たこの木は、

今一体どんな想いでこの町を見ているのだろうかと・・・

 そして物言わずとも、この地のことを見守り続けていてくれる

この木に、自然と尊敬と感謝の念が湧き起こってくるのです。

 

 横浜開港のこの記念すべき場所をスタート地点として、

私の横浜散歩は始まります。すぐ目の前はもう海。

ここからほど近い場所にある大桟橋から、横浜の港の歴史は

始まりました。

 日本の玄関口として外国から数多くの船が到着し、それまで

見たこともなかった未知なる世界の人々や多くのものが一気に

なだれ込んできました。そうして横浜は日本有数の商業都市

にまで発展したのです。

 

 桟橋を背に海岸通りを歩く時、私は当時の港の様子を

想像してみることがあります。到着した外国船から

降りてくる華やかな異国の人々や沢山の荷物、それを迎える

役人達やはっぴ姿の人力車の車夫などなど・・・

 港の周辺にはいつも、そんな光景をひと目見ようと集まった

多くの見物人達が老若男女を問わずにいたことでしょう。


 そんなことを思いながらそのまま海岸通りを歩いて行くと、

そこには山下公園があります。ここは1930年、関東大震災に

よって生じた膨大ながれきを利用して造られました。

 心地良い潮風を吸い込みながらよく整備された公園の中を散歩

するのは、とても気持ちが良いものです。そして今も堂々たる姿を

見せて横たわる、氷川丸のほぼ向かい側に、かの有名なマッカーサー

元帥も宿泊した事で知られる老舗のホテル、ホテルニユーグランドが

現れます。

 

 明治初期に実際に存在していた当時の社交場、旧グランドホテルの

名前を冠したホテルニューグランドの、いかにもクラシックホテル

らしい内装の本館入り口を入ると、正面には重厚な造りの大階段が

見えます。その左手の奥にあるレストランでランチを取るのが

私のお勧めです。何故ならその昔、ここにいたスイス人シエフが

考案したと言われている、特別なドリアを味わうことが出来るから

です。休日にはいつも長蛇の列が出来、並ぶ覚悟が必要ですが、

それだけの価値はあるのではないでしょうか・・・?


 さて、歴史あるホテルでお腹を満たしたら、再び歴史散歩に

戻りましょう。そのままマリンタワーの方向に進み広い通りに出ると、

昔外国人居留地と隔てるために設けられた堀川が見えてきます。

そこに掛かる陸橋を渡れば、そこはもう、元町商店街です。

 フクゾーやキタムラ、ミハマといった、元町発祥の人気ブランド

が軒を連ねるこの賑やかな商店街も、もともとはその上の外国人

居留地に住む人々の暮らしを支えるために発展した場所でした。

 今では当たり前に存在している理髪店やクリーニング店、

それからレストランやパン屋さん・・等などはすべて、ここ横浜

で始まりました。


 街の所々にはそのことを示す、いわゆる発祥の碑が数多くあります

が、そんな発祥のお店のひとつでもある、ウチキパンも私のお気に入り

のひとつです。

 元町商店街の入り口にほど近いこのお店で焼きたてのパンを買い、

右手にある急な坂道を頑張って登って行けば、そこには有名な山手の

観光スポット、港の見える丘公園があります。

 ここの展望テラスからの眺めは最高で、晴れた日にはベイブリッジ

や港の全景を思う存分楽しむことが出来ます。

 ここのベンチに座って青空の下、さっき買って来たパンをかじり

水分補給をすませたらひと休み。その後にはもう一つ、お楽しみが

待っています。実はこの敷地内には美しいイングリッシュガーデンが

あるのです。

 訪れる季節が春か秋であれば最高です。何故ならば、見事に咲き誇る

沢山の薔薇の花々を眺めることが出来るからです。その種類は豊富で

香りも良く、うっとりしてしまうほどです・・・

 そんな美しい薔薇の花々を写真に収めたら、今度はその向こうに

佇む西洋館を訪ねてみましょう。


 「横浜山手」と聞けば、ああ、西洋館が有名よね?と思い付く

方も多いのではないでしょうか?

 そう、山手には7つもの西洋館があり、いつでも無料で

公開されているのです。港の見える丘公園の敷地内にはそのうちの

二つ、イギリス館と山手111番館があります。そしてそこを出て

すぐの山手本通り沿いには、山手234番館、エリスマン邸、ブラフ

18番館、さらにはべーリックホール、外交官の家といった歴史ある

西洋館が建ち並んでいます。それら全てを一度に廻るのは少々大変かと

思いますが、その途中にはレトロで可愛い喫茶店、えの木ていやエレーナ

といった老舗のお店もありますから、それほど苦にはならないかも知れ

ません・・・


 異国情緒溢れる山手の丘を一巡りした後、私がいつも最後に足を

留めるのが、外国人墓地です。1854年、ペリー艦隊のミシシッピー号

のマストから転落死した若き水兵を、海の見える所に埋葬して欲しいという

ペリーの意向を汲んで設置されたのが始まりだというこの墓地には、

およそ40数カ国、4800人以上もの人々が眠っているそうです。

 その中には横浜の歴史の教育や文化の面で貢献した、キッダーや

ブラウン、シドモアといった大勢の外国人やその家族たちの名前も

あります。

 

 港をのぞむこの場所に立ち、遠く異国から吹いてくる風に吹かれる時、

私はいつでもこの素晴らしい街の発展を築いた先人達に想いを馳せます。

すると明日への生きる勇気や活力が湧いてくる気がするのです。

 魅力溢れる港町、横浜。異国の風に誘われて、あなたも一度

この街を訪れてみませんか・・・?




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