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まりな
2022年2月26日 00:20
ああそうだ、下野くんてこんな顔の人だった。カフェで向かい合って、久しぶりに見た下野くんの顔と薄れていた記憶とを整合させる。今日は約束していた日で、放課後にカフェで下野くんと会っていた。有名な進学校に通っているだけあって、勉強の話に花が咲く。前回とは違って、今回は普通に話が弾んでいる。これも瑞綺くんとの練習の結果なのだろうか。だけど、話は弾んでも、時間も気持ちも積み
2022年2月26日 00:19
瑞綺くんとデートをした後、恋をするための練習なんて辞めようと決めた時から、1ヶ月が経っていた。あれから、瑞綺くんとは話していない。会うことも無くなった。連絡を取り合うことがなければ、関わり合うこともなく、出会う前と同じように時は過ぎていくのだった。たまに校内で見かける瑞綺くんは、相変わらず美しくて、高い身長にスラリと長い手脚、シャープな輪郭に涼しげな表情で、学
2022年2月26日 00:17
「それは、恋でしょ」放課後の教室で、亜希に瑞綺くんとの一連の出来事を洗いざらい話すと、彼女が得意げに言った。「これが、恋なの?」「恋でしょ! じゃあ聞くけど、なんで練習なのが悲しくなっちゃったの?」「え、それは……、うーん。練習ってことは、本当のデートじゃないって事で、ってことは、そこに気持ちは無くて、形だけのデートってことだから……あ、そっか」「でしょ?
2022年2月26日 00:15
一緒に選んでもらった服を着てファーストフードで昼食を食べて、その後は瑞綺くんの服を見たり、雑貨を見たり、そうしているうちに、あっという間に夕方になった。駅からすぐの公園で、テイクアウトしたカフェオレを飲みながら、ベンチに座っていた。「今日、おつかれさま。いろいろありがとう」「それは、こちらこそ」「俺、初デートだったなぁ。今度ね、雑誌でデート企画があって、女性のモ
2022年2月26日 00:12
待ち合わせの場所に着くと、瑞綺くんはすぐに見つけられた。改札を出てすぐの駅の柱に、人混みからスラリと頭ひとつ抜けて立っている。背が高くて、駅の柱に沿って立っているだけなのに、様になる。何気ない風景を切り取って絵にしてしまえるようなオーラがあって、改めてすごい人なんだなと、ぼんやりしてしまった。時計を確認してから、ぐるりと辺りを見回した瑞綺くんが、私を見つけて手を
2022年2月26日 00:10
昨日はよく眠れなくて、寝坊の結果いつもの電車に乗れないのが悪かった。まさかこんなに混むなんて。電車に乗る時間を、いつもより2本分ずらしただけで、人の多さはこんなに変わるのかと四方を人に圧迫されながらため息が漏れる。「え、なんで今日こんな混んでんの?」「今日金曜日っしょ」「あーー! 瑞稀くんね」瑞稀、という名前を耳が拾って一瞬息が止まった。昨日のことを思い出して、脈
2022年2月26日 00:07
「じゃあ俺と練習しない?」立花くんが真っ直ぐにこちらを見て言うので、私の視線はもう、その綺麗な顔から逸らすことができなくなった。時間差で言葉を咀嚼して解釈に頭を巡らせるけど、一体何を練習するのか分からなくて、だけど緊張で声が出ない。瞬きを繰り返しながら固まっていると、長いまつ毛を上下させながら私の様子を観察した立花くんが「大丈夫?」と聞いてきた。「あの……練習って