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【介護事例】EP1:夜間ナースコール最高152回のY子さん87歳

出会えた素敵な方々とのエピソード集

初めて担当したY子さん

【有料老人ホームで出会ったY子さん】

仮名・Y子さん 
年齢・87歳 (出会った当時)
要介護・4
既往歴・アルツハイマー型認知症、
   ・大腿部骨折
          ・咽頭の手術歴あり
ADL・自力歩行できない。移動は車椅子。
        ・立位保持は掴まって数秒なら可。
排泄・当初は全時間帯テープ式オムツ
   ↓のちに変更
  ・日中 トイレで2人介助(リハパン)
        ・夜間   テープ式オムツ
嚥下・ペースト食
   ※ST評価上はギザミ食でOK、
   ※ご本人様の希望でペースト食
家族・息子2人。
       ・長男夫婦が近くに在住、
          長男様は大手企業勤務で出張も多く、
          お嫁様がこまめに来てくださる。

Y子さんプロフィール

有料老人ホームで働いていた時、初めて担当させて頂いたおばあちゃんとのエピソード。

介護士として、色々学ばせて頂いた恩人ともいえる。
とても優しくてお話も楽しいけど、認知症があるからたまに情緒不安定になるし、短期記憶が弱いため同じ質問を繰り返してしまう。

そしてびっくりするほどの寂しがり屋さん。
ご家族様をはじめ、リーダーや看護師さん、理学療法士さんにもY子さんの生活が充実できるように連携を積極的にとってきたつもり。

今回はこのY子さんから学んだことを書いてみる。

部屋に1人では寂しくて過ごせない。。。

私達、介護スタッフは基本、仕事に追われている。
車椅子移動で介助が必要なY子さん。
認知症もあるため、歩行困難なのに忘れて歩こうとしてしまうこともしばしば。
そのため居室以外にいる時は見守りが必要。
見守りスタッフが作れない時、つまりは食事や体操、アクなどの時間以外は、居室のベッドに臥床して寝ながらTVを見ていただくことになっている。

ここでこの寂しがりや過ぎるY子さんが1人居室にいるとき、何が起きるか。

それは、

【Y子さんはナースコールを押しまくる】

びっくりするくらい鳴る。
本当に連打される。

「Y子さん、どうしました?」

これに対する答えは毎回違うものの、だいたいが、

👵「体操はあるの?」
👵「今は1人で寝てるから寂しい」

これに答えたところで、ナースコールを切るがそう、すぐにまたナースコールが鳴る😱

ナースコールが鳴ってすぐに居室に行ってあげられれば良いのだけど、なんせ集団生活。
介護スタッフの人数も限られているし、他のご入居者様の対応をしていたりもする。

インカムで共有をして、1秒でも早く手が空いたスタッフが様子を見に行くような対応している。

また、臥床する時。
このあと「ナースコールを押して質問してくる」と予想ができるため、部屋から離れる前に体操の時間をお伝えしたり、少しお部屋で話したり、メモを残したり色々試したが全く効果がない。
基本は短期記憶が弱いため、ほんと秒で忘れてしまう。
メモを見たとしても、効果が得られない。

運がいいと、10分位はインターバルがあったりする。

見守りができる状態になれば、離床して共有スペースにお連れするものの、、
最初は他のご入居者様とおしゃべりしたり、
手が器用なので何か作ってもらったり、
塗り絵に集中されることもあるんだけど、、、
集中が切れたりすると、急に「部屋に返して〜」と落ちつきがなくなる。

理由を聞いても「横になりたい」とのこと。
疲れさせてしまったかなぁ。と思いつつ、他の仕事の兼ね合いですぐに臥床介助が出来なかったりもして。
(そこは集団生活だから本当に申し訳ないけど、きちんとお願いをして我慢していただくことも🙏)
きちんと手が空いたら、居室に戻り臥床して休んで貰うんだけど、そうするとナースコールの連打が始まってしまう。

介護士の視点からすれば、Y子さんの「ナースコールの件数を減らしたい」と思ってしまう。

Y子さんは、ひとりぼっちが苦手なのに個室に1人でいなければならない。
この状況が心配、不安を生み出して、ナースコールで人を呼ぶというふうにせているのだから。

結果的に対応策が見つからなかった。
どうすれば、この不安を少しでも減少させてあげられたのだろうか。

私が考えるY子さんが1番落ち着く対応は、

【居室のベッドで横になりつつ、誰かが部屋にいてくれる状態】

がベストなんだと思う。。

介護スタッフの人手不足の問題上、叶えてあげるのは難しくて、やったことがないんだけどね。

ショートスリーパーであることが発覚。

こんな寂しがりやのY子さん。
実は夜間帯、数時間しか眠らない。
そう、ショートスリーパーである。

昔から「眠剤」を寝る前に飲んでいたというが、基本この薬が本当に効かない。
もはや「寝る前、飲むというルーティンをした」という【安心感】しか生まれていなかった。

その流れで、
入所以降、22時に睡眠導入剤を介助にて内服していたが、相変わらず本当に効果がない。

何十年というルーティンなので、この安心感のために「薬を飲まない」ということはできない。

なぜなら、実際、22時前のナースコールは、
「眠剤は?」
と内服するまでナースコールが止まらないから。

看護師に相談。
薬なら効果が欲しいし、効果がないのなら偽薬(ラムネとか)でもよいのでは?と、完全に素人ながら意見を出したこともある。
(看護師は日中しかいないので夜間の様子を知らない)
何度か薬の変更で様子を見たこともあるが、結果的に睡眠時間が少なくとも健康に害なしと認められ、当初の薬に戻されてしまった。

「もう、睡眠導入剤を飲んでるんだから、お願いします、、寝てちょうだい。。」
と思うこと自体、諦めることにした。

夜間帯Y子さんの睡眠時間

寝て欲しいと思ってしまうのは、睡眠時間が足りなくて心配になるのも勿論あるが、
なんといっても、「ナースコールの連打」の対応が本当に大変なのである。

Y子さんは2階フロアの居室。
夜勤は2階と3階の20名ほどを1人で担当するため、Y子さんにつきっきりとはいかない。

Y子さんの夜間帯のナースコールは、

「お腹すいた」
「ひとりぼっちで寂しいの」
「明日の朝ごはんを準備しないと」

0時を過ぎるとほぼ95%は朝食の心配の訴え。

そこで、きちんとY子さんに向き合おうと、その訴えの意図は何かを追求することにした。
どういう対応が良いのかを考え、ご家族様やリーダー、看護師などに相談した上で実践した。
まずは自分が夜勤の時に試してみて、成功したものを全スタッフに共有した。

⚫︎「お腹すいた」
〈考察〉
元々ペースト食だから噛んでいないのもあり、すぐにお腹すいちゃうのかな?
寝る前に小腹がすくのはわかる気がする。
〈対応〉
①ご家族様、看護師に了承を得て、補食を用意
→最初に訴えがあった時に補食を提供した。
→その後ナースコールで同様の訴えが少なくなった。 
②ペースト食→ギザミ食へ変更(※ボツ案)
STからはギザミ食の許可が出ていた為、少しでも咀嚼効果の得られる食形態に変更した。
→ご本人様がペースト食に慣れている為、ギザミ食だと「食感が嫌だ」とご飯を残すようになってしまい、ペースト食に戻した。

⚫︎「ひとりぼっちで寂しいの」
〈考察〉
家族に囲まれて過ごしてきた方。
元々1人でいることが苦手なため、ひとりぼっちで寂しさを感じるのは理解できる。
〈対応〉
訪室してウトウトするまでおしゃべり。
寂しい気持ちを紛らわせ、精神的に落ちついて頂く。
→覚醒するとナースコールが鳴るが、インターバルが長くなることもあった。
時折、私が話しすぎて、ウトウトが覚醒してしまうことがあって反省。。

⚫︎「明日の朝ごはんを準備しないと」
〈考察〉
元々若い頃も起床が早いのと、家族のために朝食を準備していたと言っていた。その習慣が残っているのだろう。
〈対応〉
これに対する対応だけは本当わからなかった。
(もしアドバイスあれば教えてください‼︎)
〈試したこと〉
①「厨房さんが作るから平気」「今はまだ夜中2時ですよ」と伝えた。
→ご自身が朝食を作ってないわけで納得されない。
②離床し真っ暗のホーム内を見てもらって、「今は夜中」と時間をわかってもらった。(気分転換にもなるし)
→納得してもらえることもあったが、ベッドに戻ったら速攻時間を忘れてしまう。

Y子さん。
そんなに色々心配しすぎて眠れてないのかなとか、本当に睡眠時間が少な過ぎて。
心配した私はご家族様にお話を伺った。

「一緒に住んでいた時からあまり寝なくて。ショートスリーパーなんですよ」とお嫁さん。

実はY子さんは、近くの長男ご夫婦と同居していたが、この認知症の症状が出始めて夜中に覚醒して起こされたりしてしまったことが原因でお嫁さんが精神的体力的に参り、この施設に入居することになった流れがある。

日中はできる限り離床し、体操で体を動かしてもらったり、他入居者様との交流を楽しんで頂き精神的に満足していただこうと努力もしてみたが、基本夜間帯のご様子に変化は無かった。

便意がない、わからない。

弄便という言葉を聞いたことがあるだろうか。

私は介護職未経験だったこともあり、このY子さんの担当になり始めて知った言葉である。

「弄便」=「ろうべん」と読む。
簡単に言えば、「便いじり」のこと。
在宅生活の時は便いじりがあった、という情報があったものの、ホームに入所されてからは出ていなかった症状。

それが突如再び現れ始めた。
(ホームでは初めて)

100パーセント居室で1人でいる時に。
入所当時は便意があったが、思えば入所してホームに慣れてきた頃に見られるようになった。

加齢や認知症の進行で、便意を感じにくくなっていたとともに、「便」という認識ができなくなってしまったようだ。

ただ、
「お尻付近に気持ち悪さを感じて何かがあったから触った」
という、違和感は感じているということである。
触るだけならまだしも、ブツを寝ながら投げつけているため、床や壁、ベッド、掛け布団、シーツなどのあちこちにブツの形跡がある。

ブツを触ってしまった手を綺麗にしない限り、汚れが拡大し二次災害となる。

正直、介護士からすれば、弄便されてしまうと本当に大変。

まず、排泄交換、着替え、清拭、シーツ&掛け布団の交換、居室の清掃が待っている。
もはや入浴した方が早いとさえ思うのだが、介護職の負担が大きい以前に、介護保険のルールでに入浴は週2回と決められている為、できない。

掃除など日中ならば他のシフトスタッフに協力要請できるが、夜勤の時は他入居者様の対応もやりながら1人で対処しなければならない。

もちろんご本人様は理解していないのだから、しょうがない。
さぞかし気持ち悪かっただろう。
「便に気づいてあげられず申し訳ない」と不甲斐なさと共に、「排便なんていつ出るか予想できたら。。」と思うようになった。

他のシフトにも弄便の影響があることから、ここから徹底的に解決のため、担当の私はデータ分析に踏み込むことにした。

まずは、
排便の時間と量を過去3ヶ月分データ化した。
この作業、本当に大変だった。

Y子さんは要介助のため、全ての排泄介助の記録が残されている。
ちなみにトイレ介助ではなく、ベッド上でのオムツ交換の介助。
毎日がどの時間も同じスタッフが介入しているわけではないため、情報を一本化するにはこの方法しかなかった。

「どの時間にどの程度の排便があったか」
そして、
「どのタイミングで弄便があったか」

1日数回便が続いていることもあるし、当たり前に人間なので排便の時間のバラツキ、例外もある。

ただ、データ化したことで、「割合」と「流れ」がわかってきた。

12:45 昼食後に排泄交換(便が付着)
14:00前 レクの為の離床で訪室した時、すでに弄便で汚れていた。

Y子さんの排便の割合

↑このパターンで弄便している割合が非常に高かったのである。
まとめると、
・昼食後の排泄介助の介入は12:45前後が多い。
・その際は「付着」の記録が多い。
・弄便が多いのは13:00〜14:00台

つまりは、Y子さんからしてみたら、
昼食後は付着便のみだった。
その後、ベッド上で休んでいたんだけど、いつのまにか有形便が出てしまい、
「違和感を感じたから触ってみたら、それが何なのか理解はできないけど、そこに有形物があったから取り除いた」、ということ。

私達の介入する時間が少し早いわけである。
もう少し時間をずらして介入すれば、排便の時間にあたる可能性が高くなり、ドンピシャで入れば弄便は防げるのではないか。

このデータと考察をもとに、私はリーダー、看護師、PTさんに下記の2点を相談した。

①結果にもとづいて、できれば昼食後の食堂から居室への誘導を13時前に変更したい。
→対応可能
②現在ベッド上の排泄介助だが、この時だけトイレ介助にトライできないか。PTさんに改めて現在のADLの評価をお願いしたい。
→PT評価の結果、2人介助であればトイレにて可能。

こうして、昼食後の排泄介助の時間と方法を変更した結果、まさかのドンピシャ対応となり、弄便が劇的に減少した。

トイレに座ることで力むこともでき、トイレにて排便することができるようになった。
10割の有形便が出きっているため、スッキリされた状態で休むことができるようになった。

ちなみに、あれだけナースコール連打するY子さんだが、弄便の時はなぜだかナースコールを押さない。
私達スタッフも、Y子さんからのナースコールの連打に悩まされていたが、昼食後に居室に戻った後に限っては、ナースコールは鳴って欲しいという願い。。。

Y子さんから学んだこと

私が介護士未経験。
担当をもつのが初めて。
知識が浅く周りに頼りまくって対応してきた。
認知症もあり、どういう対応が良いのか。
よりY子さんが穏やかに過ごせるのか。
私なりに考えて行動した。
ご家族様も協力的で、未経験の私を信用し、沢山のことを実践させてくださった。

Y子さんは寂しがりやで沢山人とお話しするのが大好き。
そんな会話の中で知った今まで生きてこられた歴史。
認知症になっても、好きなことやこだわり、ルーティンは頭でも体でも覚えている。
常に家族のことを思いやり、いつもこまめに来てくれるお嫁さんに感謝の言葉を述べる。

弄便やナースコール連打など、介護士としてどう対応したら良いのか、沢山考えさせられたけど、
本当に社交的で素敵なおばあちゃん。

初めての担当がY子さんだったから自然と寄り添えた気がするし、介護の「寄り添う大切さ」を教えて頂いた。





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