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なみだの理由。


こんな涙は初めてだった。

私は割と涙もろい方で、悲しいことがあったり、感動したりすると、すぐ泣いてしまう。

映画を見たり、小説を読んだりして、感情移入して涙することもよくある。

最近だと、幸せすぎて泣けてきたことがあって、それもすごく不思議で満たされた感覚になった。

でも、この前泣いたときに襲われた感覚は今までにないものだった。

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今年のお盆は、母の大切な人のお墓参りをした。

今までも何回か一緒に行って、お参りしていたけれど、今回は結婚が決まってから初めて行ったので、その報告をしようと思い、手を合わせた。

お水をかけて、お花を生けて、お線香をあげて、心の中で話しかける。

もう、ここに来ることはないかもしれないな。

ふと、そんな考えが頭をよぎった。結婚したら新しい家庭ができて、今の家族とお墓参りをすることも少なくなるだろう。だから、ここに来ることも最後になるかもしれない。

空を見上げると、眩しいほどの青空だった。雲ひとつない青空に、黒い墓石が輝く。

きれいだな。素直にそう思った。この光景を私はきっと忘れない。

その時だった。突然、涙が溢れてきた。

なぜだか分からないけれど、目頭が熱くなって、抑えようと思っても、視界が滲んで、鼻の奥がつんとなる。

涙が止まらないの。

思わず母に言うと、涙はますます溢れてきて、私は自分の目を両手で覆った。

きっと、ここに来てるんだね。喜んでるんだよ。

そう言う母の目にも涙が光っていた。

目には見えない何かが、誰かが、本当にここにいるのかもしれない。初めてそう感じた。

でもそれは怖いことじゃなくて、なんだか優しくて、何か大きい温かいものに包まれているような不思議な感覚。

自分の意思とは関係なく、悲しいような、寂しいような、嬉しいような気持ちになって、自然と溢れてくる涙。

あの涙はなんだったんだろう。

私は、あの日の涙の理由を、まだ分からないでいる。