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一期一会。


人生は、一期一会。何かで耳にした言葉だ。

一期一会とは、一生に一度しかない出会いのこと。少し違うかもしれないけれど、今日は、私の少し前にあった一期一会を綴ってみようと思う。

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2019年11月。私はボランティアで丸森町に行ってきた。そう、台風19号の被害を受けたまちだ。

私は学生時代に何度か丸森を訪れたことがあって、今回のことは他人ごとではなかったし、何か力になれればと思っていた。

でも力仕事をできるわけでもないし、行っても迷惑かも。そんなことを考えていた時、バスが仙台から出るというのを目にして、これは、と思い切って申し込んでみた。

色々準備をして、バスに乗り込むと、たくさんの人たち。ほぼ一人で参加しているよう。無言のままバスは進む。私は、外の風景を眺めながら、学生の頃よく色んな所に行ったのを思い出したり、懐かしい農村の風景に目を細めたりしていた。

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到着すると、準備体操をして、班分けが始まる。「軽トラック運転できる人!」「家の泥かき3名!」挙手制で決まるらしい。えー、何ならできるだろう。そう考えているうちにどんどん人が少なくなり、焦ってとりあえず手を挙げた。

私がすることになったのは、あるお宅の家財道具を運び出す作業だ。5名のグループで、男性2名、女性3名。はじめましてのあいさつを交わして、お宅に向かう。

さっきまで話したこともなかったけれど、歩きながら会話は進む。「どこから来たんですか?」「学生さんですか?」「何回目の参加?」そんなふうに、顔も名前も知らなかった人たちと話すのは、なんだか不思議なかんじだ。

思い返せば、最近は家を職場の往復ばかりで、家族や職場の人意外と話す機会ってあんまりなかったかもしれない。そう思うと、なんだか新しい世界に飛び込んだ感じだった。

聞いてみると、男性2人は学生さんで、一人は就活中で、もう一人は消防士になるらしい。若い女性は普段は仕事をしていて、今回初めてボランティアに参加したとのこと。中年の女性は、東日本大震災の時にも色々な場所でボランティアをしたそうだ。

たまたま一緒になった5人だけでも、こんなに全然違う人生を歩んでいる。そう思うと、なんだか急に目の前が広くなった気がした。

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お宅に着くと、家の方にごあいさつをして、さっそく作業を始めた。ただ、あまりにも被害が大きくて何からすればいいのか、家の人も分からない状況だ。

それでも、皆やれることを見つけて、家の方に確認しながら、泥出しや洗い物の作業を進める。私もあわてて置いて行かれないように、軍手をはめた。

こういうときに、自分のやるべきことを見つけてすぐ動けるというのは、本当にすごいと思う。しかも、相手に配慮しながら、コミュニケーションをしっかりとって。これは年齢云々ではなく、その人自身の力というか、人柄なんだろうなぁ。私はまだまだ。頑張らねば。

午前中の作業が終わると、お昼の時間だ。いったん集合場所に戻って、ご飯を食べる。班はバラバラになったけれど、私は何となく同じ班の年の近いお姉さんと一緒に食べた。

食べながら、台風の話や普段の仕事の話を少しした。ずっと話していたわけじゃないけれど、数時間一緒に活動しただけで、親近感がわいて、仲良くなれるのは、なんだか新鮮な感覚だった。

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お昼が終わる時間になると、なんとなく班の皆がぽつぽつを集まってきて、また午前中のお宅に向かう。

男性陣も仲良くなったようだし、中年女性は色んな人とお話ししてきたようだ。「今日の家、明治からあるらしいよ。」「えっ?明治?すごい!」そんな会話をしながら、歩みを進める。

午後からは、本格的に家具の運び出しをした。どうやらお昼の間に、大学生の男の子たちがボランティアセンターの方と交渉して、使えなくなった家具を歩道脇に出せるようにしてくれたらしい。なんという行動力と交渉力。

さっそく、泥がかかった家具や畳をみんなで歩道脇に運んでいく。やっぱり、大きい家具が敷地からなくなると、片付けが進んだ感じが目に見えて、家の方々も喜んでくれた。

気が付くと、あっという間に終わりの時間だった。「どうもありがとうございました。」私たちは家の方々とお互いをねぎらい、お宅を後にした。

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集合場所に戻ると、まだどのグループの戻ってきていなかった。長靴や借りた道具の水洗いを早めに済ますと、みんなで近くに腰を下ろした。

「就職先は、どこを目指しているんですか?」時間が空いたので、就活中の男の子に質問してみた。

「メディア系かなぁと思ってます。大学では、地震工学を学んでいたので、そういう知識を生かして、災害のこととか伝えられたらなって。」と、男の子は教えてくれた。久しぶりに、誰かの夢の話を聞いた気がする。心がわくわくした。

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徐々にほかのグループも戻ってきて、ボランティアセンターの方から、「今日は、おつかれさまでした!」とねぎらいの言葉をもらい、おひらきとなった。最後に、地域の方から焼き芋の差し入れがあった。あったかい。

バス乗り場までグループのみんなと向かう間、さっきのお宅の前を通った。歩道にはさっき運んだ家具が並んでいる。少しは力になれたかな。

「ばいばーい」

バスが別々だったので、みんなとはここでお別れ。なんともあっさりした別れ方だけど、こんな感じもいいなと思った。別々の場所からきた人が同じ目的で汗を流して、また元の場所へ戻っていく。

もう多分、二度と会うことはない人たち。でも、私はたくさんのことをみんなから学んだ。取り組む姿勢や考え方、思いやり。自分の持っている力を、目の前の困っている人に惜しみなく使う。でも自分を犠牲にするんじゃなくて、等身大のまま、自然体で関わっていく。

そんな素敵な人たちと過ごした一日は、私の中に大切な軸を作ってくれた。きれいごとだといわれても、私は私の思ったまま、少しでもできることをしていきたい。誰に言われるでもなく、自分の信じた道を進みたい。

「ありがとう」

私は心の中でそう唱えながら、ひとくち焼き芋をかじって、バスからの風景を眺めた。