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やさしさの連鎖。


だいぶ前のことになるけれど、髪を切りに美容院行った。その日は、いつもと違うお姉さんが担当してくれた。

「髪、きれいですね!」

髪をとかすなり、いきなりお姉さんに言われた。

「そうですか?」

「はい!こんなにきれいなの珍しいですよ!いいなぁ、羨ましい〜」

こんなふうに人に褒められるのは久しぶりで、「ありがとうございます」と言ったきり、恥ずかしくて俯きがちになってしまった。

でも、なんだか心が温かくなった。褒められるって、こんなに嬉しいことなんだ。

「せっかくなので、ちょっと違うヘアスタイルにしてみてもいいですか?きっと似合うと思うんです!」

お姉さんに言われると、私も新しい自分に出会いたくなって、「お願いします」と答えた。

帰り際にもう一度お礼を言って店を出た。髪だけじゃなく、心も軽くなった気がした。

・・・

そのあと、ちょっとした支払いがあって、近くのコンビニに寄った。

機械を操作していると、隣のコピー機の前で、おじいさんが指を画面に近づけたまま、固まっていた。

困っているのかな。でも、声をかけたら迷惑だろうか。心が揺れる。

普段の私だったら、見て見ぬふりをしていたかもしれない。でも、今日は声をかけてみようと思った。

「どうかされましたか?」

私は勇気を振り絞って声をかけた。すると、おじいさんはほっとしたように、「コピーの仕方がわからなくて」と答えてくれた。

さっそく画面を覗いてみる。しかし、気持ちだけ空回りして、何をすればいいのかさっぱり分からなくなってしまった。

あぁ、やっぱりダメかもしれない。そう思った瞬間、後ろから「僕やりましょうか?」という声が聞こえた。

おじいさんの後ろでコピーを待っていた男の子だった。素早く画面を操作すると、あっという間にA4の紙が出てきた。

「どうもありがとう」

おじいさんは、私と男の子を交互に見ながらお礼を言って帰っていった。

よかった。私は心の底から思った。頑張って、声をかけてよかった。

そして、それはきっとあのお姉さんのおかげかもしれなかった。

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コンビニの帰り道、私はふと、優しさってつながっているのかもしれない、と思った。

今日コンビニで私ができたことは、あのお姉さんの言葉があったからだった。

髪の毛を褒めてくれたこと。その温かい言葉に、思いやりに、私の心はまあるくなった。

そして、そんな気持ちだったから、私はおじいさんに声をかけられたんだと思う。

お姉さんがくれた優しさを、他の誰かに返したくなったのだ。

もしかすると、あのおじいさんもどこかで泣いている子供に声をかけたりしているかもしれない。

そう考えると、優しさはこんなふうに繋がっていくんじゃないかと思えた。

繋がって、繋がって、いつかは地球をまるごと包み込む大きなベールになるかもしれない。

そんな素敵なことを考えながら、私は家までの道のりを歩いた。