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ぎゅっ、となる匂い。


朝の匂いが好きだ。

午前7時。ゴミを出しに行くほんの数十秒。ドアを開けた瞬間にふわっと香る朝特有の湿気が混じったような深い空気。

そして、ぼんやりと明るい朝の空と、目覚めたばかりの街並みが目に映る。

その瞬間、ふと懐かしい気持ちが襲ってくる。昔泊まった山奥の民宿で、朝起きて窓を開けた時のこと。旅行で朝早くホテルを出た時の街の空気。

色んな感覚が入り混じって、一瞬でそれらの記憶が蘇ってくる。あぁ、懐かしいな。そんな気持ちになって、なんだかすごく切なくなる。

でも、そんな切なさも嫌いじゃない。むしろ好きな映画や小説を見終えた時のような、幸福に満ちた感覚。幸せな瞬間だ。

何も考えないで外に出て、それを感じた瞬間、一気に目が覚めて、急に幸福が訪れる。

ゴミを出すだけで、こんな幸せな気持ちになるなんて、私の幸福ってなんて安上がりなんだろう。でも、そんな自分も案外嫌いじゃない。