公私混同、ならぬ、公私融合。インスピレーションはフランス生活から。
フランスの大学院卒業後、そのままフランスで出版社に就職しました。3年という短い期間でしたが、フランスでの生活を通じて目の当たりにした彼らのライフスタイルは、今でも私の考え方に少なからず影響を与えています。仕事を1週間以上休むとドキドキしてしまう日本人気質は3年だけでは変わりませんでしたが、一方で、フランス人が大好きな(夕方以降、何時間もカフェの軒先でオリーブをつまみにワインを飲み続け、喋り続ける)アペロや(仕事の合間の複数回にもおよぶ、またかという頻度で訪れる)コーヒーブレイク、(冷凍食品をきれいに並べておしゃれに見せてしまう)ホームパーティーや(誰もが評論家となってしまう)日常の芸術鑑賞、、、今は東京でせかせかと働きながらもやはり彼らの生活のスタイルには(一部)憧れを抱き続けます。
さて、そもそもフランスに留学したのはなぜか。日本で大学生だった頃、劇団で仕事をする機会がありました。その経験を通じて「アートとアーティストを支える仕事をしたい」と思ったのがきっかけでArt and Culture Manegementという当時はまだ珍しいアート経営学の専攻ができる大学院への留学を決意したのがきっかけです。「HEC, Paris」という学校パンフレットの記載を信じてパリに向かったところ、キャンパスはパリから電車を乗り継いだ先の牧場に隣接した郊外の丘の上。その日の風向きによっては牛糞の匂いを嗅ぎながら勉強に励む日々でした。20年くらい前の留学の思い出が、甘く切ない恋などではなく、牛糞の匂いに包まれてしまうのはいくぶん残念ですが、逆に辛かった寮生活も牛糞が包み込んでくれるお陰で、今となっては和らいでいるのかもしれません。経営学というだけあり、ひたすらケーススタディでしたがそのケースがすべてアートとカルチャー業界のもの。例えば法律の授業では取り上げるのがブランクーシの「空間の鳥」を巡る論争。企業戦略で取り上げるのはポンピデゥー美術館のプライシング戦略。
呟きはさておき、この学生生活と卒業後に働いた出版社での社会人生活が今でも様々なインスピレーションに繋がっていることは間違いありません。フランスでの生活の不満や批判(フランス人は批判や批評が大好きなので負けていられない。)は話し始めたら止まりませんが、それはまたの機会にして、私が尊敬して止まない彼らの生活の楽しみ方、仕事と家庭の考え方、家族や友人との時間の過ごし方、上手な休暇の取り方についてはヒントがたくさん、世界中の人に共有したいと思うことが多くあります。とりわけ新卒の私にとって会社に行く喜びでもあり、頑張ろうと思うエネルギーの源にもなっていたのが1日に数回あるコーヒーブレイク中の同僚や上司との会話。今はメールが主流になったので電話でのコミュニケーションはあまり必要ではないかもしれませんが、フランス人と仕事をしたことのある方なら誰しも経験したことがある、「今、席を離れています」電話応対。いつ電話しても席にいない。どこにいるんだ、何をしているんだ!?と怒りがおさまりませんが、彼らは忙しいんです。コーヒーブレイク中。出社して席に座り、「よし、今日も頑張るぞ!」と仕事に取り組み始めて間も無く、部屋に誰かが顔を覗かせ「麻里子、コーヒー飲まない?」と声を掛けにきます。ようやく集中し始めたけれど、、、でもこの時間が大切なことを十分に理解しているので断りません。10分くらいの短い時間、でもこのコーヒーブレイクの間に社内の人間関係、上司の家庭環境、同僚のバカンス計画、色々な情報が入ってくるのです。10分くらいすると皆またすっと仕事に戻る。お昼ご飯まですごい集中力で仕事に取り組む。そしてランチ後、また食後のコーヒーを飲みに行く。ランチ後のコーヒーを終え、仕事に戻って頭をフルに回転させているとまた誰かが顔をのぞかせ、「麻里子、コーヒー一緒に飲みに行かない?」と声をかけにくる。この繰り返しです。でもこのコーヒー片手に話す10分がものすごく大切な時間なのです。もしかしたら日本では仕事の後の居酒屋で交わされる会話に似ているのかもしれません。でも、仕事の後に居酒屋に行ける人は限られています。例えば子育てをしていると、居酒屋にはいけません。彼らの「素顔」はのぞけない構造です。
日本の職場では「公私混同するな、職場にプライベートを持ち込むな」、こんな考え方があると思います。実際に言われたこともあるかもしれません。職場は仕事をする場所。自分のことをああだこうだ言う場ではない、真面目に働け!こんな空気でしょうか。この考え方、もう通用しないと思うんです。小さな子供がいる父親や母親は、会社で働いている間も、お父さんであり、お母さんです。勤務時間中も子供の成長が止まっていません。介護している親の体調も変化しています。病気を抱えながら働いている人は、少し痛みを感じているかもしれません。結婚式を目前に控えた人は、ワクワクと同時に不安でいっぱいかもしれない。現代の働き手はもはや同質なサラリーマンではなく、多様になっています。
戦後、そして高度経済成長期は企業で働く男性と家庭を守る専業主婦がいて、働き手は基本的に同質性が特徴でした。企業は、その同質な働き手を精一杯サポートすれば良かった。今、往時の同質な働き手、マイノリティーになっています。それなのに変わらない「公私混同=悪」の考え方。そこに新しい「公私融合」をもたらしたい、という想いでコンシェルジュ会社を始めました。
夜の居酒屋にはいけないけれど、日中10分のコーヒーブレイクなら出られます。そこで話をしたい、皆のもう一つの顔をみたい。
働く人にはプライベートの顔とプロフェッショナルの顔がある。でもそれを無理に切り離して二重人格のようにする必要はないはずです。どちらの顔もあるからこそ、その人が立体的そして人間的に魅力ある人になるはず。日本に帰国してから起業するまで、ずっと金融機関で働いてきましたが、私は女性の上司に恵まれてきました。女性の上司と例えばランチを一緒に食べるとき、営業先に向かう道中、出張中のひととき、ちょっとしたその女性の仕事とは違う顔をみたとき、一気に親近感が湧き、悩みを持っているのは自分だけではないんだ、完璧に見える上司も日々戦ったていると知るとき、自分も頑張らないとというエネルギーと、少しうまく行かない時があっても、良いのかもしれないと言う安心感を抱くことができました。
公私融合。私たちの生活はプライベートとプロフェッショナルの二つを切り離しては考えれらないはずです。融合して考えた時、どんなことができるだろうか。どんな生活を求めるべきだろうか。考える前提が違うのです。
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