ドラムは部屋じゃ叩けない
ローリングストーンズというロックンロールバンドがいる。曲は知らなくても例のベロマークを見たことがあったり、それこそTシャツを持っている人も多いと思う。一応説明すると、もう結成から60年が経とうとしている、ロックンロールの歴史そのものみたいなバンドだ。あのビートルズと同年代から活躍し、未だ現役なのだから恐れ入る。私はローリングストーンズが大好きで、Tシャツも相当数持っているのだが、2020年に買った一枚を紹介したい。
これは2020年4月18日、レディ・ガガと世界保健機関(WHO)、グローバル・シチズンという国際的な貧困問題に取り組む団体が企画した"One World: Together At Home"というチャリティコンサートを記念して作られたTシャツである。オフィシャルロゴのようなものは白い手に囲まれた部分が赤い丸なのだが、そこはローリングストーンズのベロマークになっている。この人たちはちゃっかりこういうことをするのが大得意である。よく見たら手の指が4本ですね、これ。何か意味があるのかな。
2020年は新型コロナウイルス関連のあれこれやBlack Lives Matterをサポートするため、あちこちでTシャツが出ていた。自分が支持する事に寄付されるのであれば、「これは単にTシャツを買っているわけではない」と、自分に言い訳ができるので手が出やすくなるわけだ。Tシャツで世界を救えると思っているわけではないが、少しでも何かの役に立つのであれば、その心意気には乗りたい。
で、その番組はYouTubeにあるので興味があれば検索して観ていただきたいのだが、皆さん弾き語りだったり、バンドならアコースティック寄りのアレンジをしたり、リモートセッションしたり工夫をしている。我らがローリングストーンズもリモートセッションだった。正式メンバーは4人なので画面は4分割。最初にボーカルのミック・ジャガーのみカメラがオンになり、ギターの弾き語りで始まった。曲は"You Can't Always Get What You Want"だ。
あんたの欲しいものがいつも手に入るってわけじゃないけど、やってみりゃ手に入る時だってあるかもしれないぜ
こういう歌詞を書き、歌える人たちなのだ。音楽に救われることというのは、実際にあるものだ。そしてギタリストのキース・リチャーズとロン・ウッドが順番に音を重ねていく。そしていよいよドラムが入ってメンバーが揃う、とそこには我々には見えないドラムを叩くチャーリー・ワッツの姿が!これには驚いた。音楽番組やライブで口パクが話題になることがあるし実際に音楽番組ではバンドの当て振りも多いだろうが、そしてそれはそれで別に悪いことだとは思わないが、エアドラムって!日本が誇るエアバンド、ゴールデンボンバーに対するイギリスの回答はまさかのレジェンドバンドからだった。いつもながら姿勢が良いのもかっこいい。
想像するに
ミック:こうなってしまったからにはリモートセッションでそれぞれ自宅から演奏するのがおもしろいんじゃないか。リラックスした感じで部屋も映してさ。ちょうど4分割で見栄えもいいだろう。
キース:そうだな、いいぜ。
チャーリー:ドラムはスタジオにあるからいつもとおんなじ感じでおもしろくないぜ。
ミック:そうか、チャーリーだけスタジオというのも絵的に微妙だな。部屋に運び込めないか?
チャーリー:おいおい、勘弁してくれよ。いっそ俺は部屋で聴いてるだけでもいいんだが。
ミック:そうだ、部屋でエアドラムすればいいじゃないか!音は先に録っちゃえばいいだろ。
チャーリー:本気で言ってんの?そんなの人前でやるもんじゃないぜ。
キース:おもしろそうじゃないか、やってくれよ。
チャーリー:キースにまで言われちゃしょうがないな。やってやるぜ。
ロン:やったぜ!
てなミーティングで決まったのだろう。繰り返すけど私の想像ですよ。きっと3回くらい練習したと思う。ばっちり音に合っている。1分後には私の目にドラムが見えてきた。非常に長い活動歴がありながら、本当に油断ならない人たちである。誤解を恐れずに言えば、もともとローリングストーンズというバンドは時代を切り拓くよりもうまく乗っかることが非常にうまい人たちなのだ。スタジアムライブにおけるサブステージとか、ライブでやる曲をインターネットでリクエスト受け付けたり、今回のリモートセッションも、一番最初に何かをやることは少なくても、誰かがやっていて「これはいいぞ」と思ったものには即座に反応する。いいなぁ、と思う。自分もこうありたいなぁ、と思う。いくつになっても、好きなものを握りしめて、新しいものを恐れずに、軽やかに、堂々と。
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