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“New Fun Team” by 花田かお&ハナダキンヤ


私がキンヤさんとカオさんの作品に出会ったのは、今から7、8年前だったと思う。場所は当時住んでいたエリアの近くにあったカフェと展示ができるLAMA Coffeeだった。
そのカフェのコレクションとして飾られていたキンヤさんの作品を見て、じわじわと気になり、棚に商品として並んでいたカオさんの作品を見てその熱狂的なファンたちの熱量に納得しながら、彼らの次の展示の機会には絶対に初日に行こう!と思っていたような気がする。遠い昔の記憶であまり定かではないが。以来、これまでに数回の展示を見させていただき、我が家にお迎えした作品もほんの少しだがある。


“New Fun Team”展(2024) カオさんの新作映像作品と立体によるインスタレーション

キンヤさんとカオさんは、ご夫婦でよく二人展をなさっているのだが、二人の作風は大きく異なり、かたやキンヤさんははっきりした色調のコラージュ作品、かたやカオさんは貝殻を使って人形のように形作っていく貝殻こけしをパステルでファンシーな雰囲気で仕上げていく作品と言った具合で、各々が好きなことを全力で出し切っている様子に見受けられる。ここ数年はコラボのような形でカオさんの代表的な作品形式でもある貝殻こけしを、キンヤさんが踏襲してキンヤこけしなるものを作っていたりもするのだが、基本的にはそれぞれがそれぞれの才能を遺憾なく爆発させている。この「無理やり二人で共同で何かを制作して二人展の体裁を整えよう」なんてことは全くしないあたりも、実は私は好きだったりする。だって、そんなの、多分、嘘だからね。世の中、嘘をさも正しいかのように整形して出してくるものが多すぎて、何だかドス黒くて大変。だけどそんな世にありながらも、己に正直に作り続けている人たちの作品展に浸りに行けるというのは、それだけで幸運で心地よくありがたい。(しつこいようだがそうじゃない展示が実際には多い、と感じる時があるので、疲れるよね。以上個人の感想です。)


“New Fun Team”展(2024)キンヤさんの新作コラージュ作品。本物のギターにコラージュしている。


以前、キンヤさんとカオさんが共同で発行していたフリーペーパーのバックナンバーをこのLAMA Coffeeで自家焙煎コーヒーを飲みながら読んだことがあった。期間限定で借りられる市民農園で野菜作りをしている話や、作品制作に使うアクリル絵の具を片付けるときに水洗したらその排水はどうなるのか考えている話など、作品に関した話から生活の話まで多岐に渡り、これが面白かった。そのフリーペーパーを読んで以来、彼らの出してくる文章にも興味があって、ここ最近の展示で発行されているキンヤさんのZINEは続けて買っている。


“New Fun Team”展(2024)キンヤさんのミックステープ。展示会場内で自由に再生できる。

今回の展覧会に伴い発行されたZINEは、キンヤさんの新作の解説とNFTアートについての考えが書かれていた。板にコラージュを貼り付けていくキンヤさんのいつものスタイルを採った新作も、最近のNFTとして発表した作品と深く関連のあるものだった。


“New Fun Team”展(2024)新作のZINE

キンヤさんもこのZINEの中で触れているが、やはりNFTアートの日本での認知度はまだまだ世界と比べると低く、情報もとても乏しい。結果的に、何だか怪しそうな金儲けの話っぽいなというイメージが先行して流れていたり(もちろんそういう悪い詐欺もあるようなのだが)もするのだが、最近読んでいた英文でのNFT関連の記事の中で、アートのNFTではなく文章のNFTというものについて書かれたものをいくつか読んで思ったことがあった。

日本は比較的言論が自由にできる状況にある。
しかしそれでも何か文章を出版物にしようと思ったとき、どこかの出版社から本を出すことになったとすると、そこには売れるためのあれこれや、出版社の方針、忖度など、作家本人の思い及ばぬようなあれやこれやが発生したりするわけだし、そもそも出版社と名のつくところから本が出せる人なんてほんの一握りであろう。
これらによって、日本国内であったとしても、本当に切実で必要な主張が世の中に出ないことになる可能性も否定できない。今やここのページのような自由に投稿ができるインターネットサイトがあったりSNSがあったりするわけで、そのような主張が潰されて消えていく確率もずいぶん減っていることとは思うのだが、さて世界に目を向けていれば、サイトにアップしても消されてしまい、もちろん出版社から出版するなんてことは不可能で、存在しなかったことにされていく文章というのはおそらくたくさんあるだろう。
そんな時に文章のNFTである。あらゆる多様な表現を、できる限り漏れこぼしなく保存し伝達し続けていくという役割をNFTが担っているとしたらどうだろうか。資本主義に合致したものだけが残され、それ以外の表現が消えていくのが従来の当たり前だったとしたら、どうだろうか。
もちろんアートも同様のことが言えるだろう。誰かが作ったアートマーケットの価値と市場ゲームに合った作品だけが残っていき、それ以外は存在ごと消えていく。しかしNFTによってこれまでよりも網羅的に作品の存在が保管されていくとしたら、どうだろうか。
NFTというシステムが何年存続できるのかは正直わからない。けれど、たとえば今日無価値と判断されたが故に消えていく運命だった絵が、NFTになっていたことで100年後にその絵が存在したことを知ることができたとしたら。仮に100年後にその絵を見ても多くの人が「なんかイマイチだな」と思ったとしても、その絵が100年前に存在したこと自体を知ることは可能なのだ。

ここまで書いておきながら何なのだが、私は別にNFT推奨派でも否定派でも、どちらでもない。ただ、新しい仕組みができて、これは面白い存在なのかもしれないな、くらいには思っている。
そして身近なアーティストの中に、リアルにNFTアートの世界に挑戦している人がいるというのも面白いと思っている。私は今のところラッキーなことに、キンヤさんの作品を見ようと思ったら近場で近い日程の展示に行けば良いし、それを購入することも物理的に可能である。けれど、もしもどちらかが地球の反対側に引っ越してしまい、展示会場も遠く離れることになったなら、SNSで最新情報を追いかけて大きな個展があるタイミングで飛行機に乗って駆けつけるか、デジタルでも購入できる形でコレクションをするかのどちらかになるのだろう。

さらに言えばキンヤさんのNFTを見てみたくてページを覗いたのだが、「え、トークンって通貨のことだと思ってたけど、作品そのものを指してる?」とか「ウォレットくらいはネット上の貯金口座みたいなもんかなと何とか理解しているけど、えーと種類がいっぱいあるな、何だろうな」とか「ん?mintミントって涼しいの?」くらいの恐ろしく知識皆無状態なので、まずは私はそこからなのだが。。。NFTについての理解が原始人レベルの私がNFTを理解して買える日はいつになるだろうか。。。クレジットカードでも買えるらしいが、どうせ買うならシステムに参加して買ってみたいという、知識がないくせにやってみたくてゼロから覚えることが多くてパンクする、休憩する、また読んでみてパンクする、一旦忘れようと思って離れる、また挑戦する、iPad閉じて目と頭を休憩させる、また読んでみてパンクして今ここ、みたいな感じをここ1年くらい繰り返してるので、前に進んだら報告する所存であるが、気長にお待ちいただきたい。


“New Fun Team”展(2024)キンヤさん新作。額装されているように見える中の絵はNFT作品にもなっているもの。



“New Fun Team”展(2024)キンヤさんのマグネット式で付けられる小さい立体。左側にいる人形型のものがカオさんと以前にこけしコラボのような形で出していたスタイルで、今回は全てギターを持っている子たちが並んでいた。

さてキンヤさん寄りの話が多くなったが、最近のカオさんも面白さが倍増している。
直近の展示では映像作品を提示しており、それがじわじわくる面白さで、意味がわからない感覚になりながらも何だか目が離せず見てしまう不思議な動画だった。


“New Fun Team”展(2024)カオさんのインスタレーション

動画といえば、もともとキンヤさんの過去のアニメーション作品を展示の時に見たことがあり、映像もいいなあと思っていのであった。その知識が応用されていたのか、身近で見ていたことによる影響があったのかなかったのか、とにかく今回のカオさんの映像は面白かった。こういうのが作品の特性との現代のネットの拡散の間にある相性の良さみたいなものも手伝って、新時代に広く拡散されていく作品になっていくのかもしれないなともふと思ったのだが、もちろん以前から続けている貝殻こけしシリーズも、確実に進化しながら今回も新作が増殖していた。


“New Fun Team”展(2024)カオさんの貝殻と珊瑚を使った大型作品が可愛い。


カオさんのところに集まってきた貝殻たち。箱にも歴史を感じる。
カオさんのところに集まってくる貝殻たち

そして何より、こういう自由な雰囲気の展示を存分に楽しめる場所がLAMA Coffee LAMA Spaceであり、LAMAに集う常連のお客さんたちであり、LAMAが好きで自分の展示がない時でもついついコーヒー片手にフレンチデリのランチもつまみながらだらだらしに来てしまうアーティストたちがたくさんいる、それがホッとするLAMAの空気感なのである。


“New Fun Team”展(2024)カオさんの貝殻こけしたちはとても小さいのに表情豊か
量が量なだけになかなかの魅力的カオス感と存在感
自由な楽しさがカオさんの魅力

いつかキンヤさんとカオさんが世界のどこかのニューヨークみたいな大都市にあるホワイトキューブ的な展示場所でレトロスペクティブ的な大きな展示をしている様子は、容易に想像できてしまうのだが、そうなっても日本の茅ヶ崎市にある兵金山というふざけているような地名のエリアに存在するLAMAの2階で、じわじわくる魅力をゆっくり堪能できる時間は、無くなって欲しくないなと勝手なことを勝手に妄想している。

つまり二人のことも二人の作品も大好きだ。LAMAも大好きだ。
世知辛い世の中で、ありのままでいる難しさを乗り越え、それを包容する人々と場所。
永遠に変わらないものは存在しないとわかっているし、変わらないことが良いとは限らないこともわかっているが、余白が許される存在や場所は、ずっとあってほしいと願う。


関連LINKまとめ

キンヤさんが最近注力しているNFTは ”objekt” というところで販売中。
mumbleboyの名前で作品を発表、販売している。

伝説を生み続けるLAMA Coffee

カオさんのインスタグラム @shellkokeshi

キンヤさんのインスタグラム @eyes_of_kh


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