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週刊ショートショートちゃんまり ② 踊る責任

  街にはフォークダンスの音楽が流れ、穏やかな時を人々は過ごしていた。
しかし、一方でこの世界では、新型のウイルスが猛威を振るい、彼らを恐怖へと陥れていた。
感染予防としてて外出時にはマスク着用やこまめな消毒を行い、他人と距離を保つなどにつとめていたが、人々は感染を恐れるあまり、ウイルスに感染したものたちを徹底的叩いた。感染者たちは「自己責任」と世間から非難されたが、世の中は誰もが感染してもおかしくない状況だった。
そんな中、ある若い男がウイルスに感染してしまった。気の毒にこの男は、結婚したばかっりの妻と暮らし始めた直後だった。

  男は隔離された部屋でこう思った。

「どうしてこうなってしまったのか。俺が感染したのは、自己管理を怠ったからなのだろうか。俺は生活のため、妻のため、働くために外へ行っただけだ」

世間はこの男に対し、「彼は仕事そっちのけで飲み歩いていた」、「スナックに入り浸っていた」だの憶測で好き勝手罵っていた。

彼の妻は、最初は夫を信じていたが、次第に第三者たちの言葉を信じるようになり、実家に帰ってしまった。彼は、自分が感染してしまったことにより、仕事も行けなくなり、妻も離れていってしまった。

「自己責任って言葉は楽だよなぁ。自己責任ってことにしとけば、当事者がただ悪いってことだもんなぁ」

男は毎日やり場のないもやもやという名の「責任」に対し、どうしようもできないでいた。

 ある日、彼の立場は一転した。彼は医療従事者だったのだが、それがわかると彼を叩いた者たちが叩くことをやめ、同情の声を彼に寄せた。
ただ中には彼を責めるのではなく、今度は、彼が勤めていた病院を責め出す者がでてきた。

「職員たちに充分にマスクや防護服が支給されていなかったのではないか!」

  病院側はこの責任を自治体に、自治体は国を、「責任」の対象がどんどん変わっていた。

  感染した男は幸い軽症だったため、すぐに治ることができ、実家に帰ってしまった妻も戻り、日常を手にしていた。

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