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2022年6月14日(火)「うらやましい」の先へ

今日で入院5日目。
わたしと同じ日に大部屋に入った妊婦さんが、退院した。

手続きや今後の経過観察について説明を受けている様子を聞きながら、うらやましかった。いいなあ、退院。

わたしは今朝の診察で子宮頸管がまた短くなっていることがわかり、せっかく減っていた点滴をまた増やされてしまったところだ。
お腹の張りを自分で止めることはできない。なるべく安静にしようと思って横になると吐き気がする。早くここから解放されたい。退院して、夫や長男に会いたい。

その妊婦さんが荷物整理を進める音を聞いていると、「あ、もしもし?」と電話し始めた。
「迎えに来てくれるの?ありがとう」
たぶん、電話の相手は旦那さんだ。

「うん、そうなの。心配だからなるべくここにいたいと思ったんだけどね。ここ数日は赤ちゃんの心拍、一時的に止まることもなく安定しているから、問題ないというご判断で。もう37週に入ったことだし、いったん家で様子を見て、自然な流れでお産がくるのを待ちましょうって。赤ちゃんの様子、自分じゃわからないから、不安だけど……。うん、健診は少し頻度上げてもらえるみたい」

ハッとした。

この人にとって、退院は全然よろこばしいことじゃない。
赤ちゃんの様子がわからなくなるから、不安なんだ。
自宅に帰れば、赤ちゃんの心拍を確認できなくなる。

お腹の中で苦しくなっているかもしれない。知らないうちに、わるくなっているかもしれない。

全然、「退院おめでとうございます」じゃない。

退院をうれしいと感じるのは、わたしの尺度だ。妊娠も出産も人それぞれで、何があるか想定もできないのに。感じ方はちがうのに。

お手洗いに行こうと思ってベッドを区切っていたカーテンを開けると、その妊婦さんがこちらを振り返って挨拶をしてくれた。
「どうも、お世話になりました」

ずっとカーテン越しに気配を感じていた。顔を合わせたのは初めてだけど、この人がいて、心強かった。わたしもがんばろうって思えてた。お世話になってたのはわたしのほうだ。

「こちらこそ。今日退院なさるんですね」
「はい、14時すぎに」

やわらかく微笑むその人をすごく近くに感じた。
わたしたちは、同じ想いを抱えている。

「元気に赤ちゃんが生まれてきますように」
そう伝えたら、少し涙が出そうになった。

「お互い、頑張りましょうね」と言って去ってゆく姿に心からエールを送った。

わたしはわたしのペースで。
お腹の中の、この子のペースで。

焦ってごめんね。だいじょうぶ。そうちゃんが元気に生まれてくるのがいちばん大事。楽しみにしているからね。
そうちゃんが安心して生まれてこれるように、ママちゃんと準備する。からだを大切にする。パパとお兄ちゃんも、ゆっくり待っているからね。



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