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スナックの現場からイベントを振り返る

この間仕事でとあるイベント運営に携わった。
タイトルはサステナブル・イノヴェイションで不確実性の未来を拓く〜大阪・関西万博「TEAM EXPO」プログラム Sustainable Innovation Lab キックオフイベントなかなかゴツめのタイトルだにゃ。

私の仕事のひとつである Next Commons Lab では2025年開催の大阪万博の一部パートを担う予定で、5年も前の現段から仕込みがはじまっている。世界に日本の今を伝える大舞台で、どの様な事を伝えていくのか?自治体・企業・研究者・実践者などなど様々な人と対話をはじめ今後ご一緒できるポイントを探りはじめたという、まさに青写真を描き始めたところだ。
(ちなみに1970年代かつての大阪万博は人類の進歩と調和がテーマで、2025年はいのち輝く未来社会のデザイン)

今回のイベントはそんなドでかいプロジェクトのキックオフという位置付けだった。裏の運営にバタついてたので内容が頭に入るわけでなくゆっくり時間を取れる時に聞こうと思い、叶ったのが今朝だった。

お客様の差し入れの #アルケミエ辰巳蒸留所 のアブサン58度をじっくり長く飲んだ昨夜なもので、ワイワイした昨夜の食器を片付けながら耳を傾けた。

登壇者の中でも立命館大学の教授の小川さやか先生(文化人類学領域)は、現場ぶっ込み力とユーモアのある語り口が大好きで前から密かなファンだった。沢山メモしたくなるキーワードが炸裂し、同時に今自分がスナックをやっていて目の前で見ている景色がまさにそうである、と感じる点が多々あった。東北の山奥の地・遠野の親不孝通りでわずかながら築いてきた世界にこれからの日本社会の未来があるのかもしれないと夢想しつつ、皿洗いをするモーニング。簡単だがキーワードと共に紹介したい。

key①不確実性

字の如し何が起きるか分からないことであり、スナック(および飲み屋)ではむしろそれがスタンダード。旅人と地元のお父さんがめっちゃ仲良くなって深夜2:00まで飲み明かしたり、はたまた喧嘩が起きて警察沙汰がおきたり、道を塞いで路上で寝ている人がいたり。親不孝通りの人達なのか夜の界隈はカオス耐性が高い。

key②バクだらけのコミュニティは楽々、楽しい

バグとは、コンピュータープログラムの誤りや欠陥の意味である。このキーワードを語る場合何をバグとするかだが、ひとまず私がバグという体で話をすすめる。(自身を卑下はしてないのでご安心を)

私は生まれながらにして出来ない事が多い。言い訳に聞こえたり誤解も招きかねない事は承知だが、時間や約束が絶望的に守れないところがあり自ら宣言しているお店の営業日や時間さえちゃんと守れず実態として不定休営業化している。(公式は水曜から土曜20:00-0:00)守ろう・ちゃんとしよう、と思えば思うほど履行できなかった時のショックと自責の念はものすごいという経験を経て、好きで始めたのに心が追いつかなくなりそうだったのでお客様各位には本当に恐縮だが『自分が無理しない・そのかわり爆楽しくやる』という方針に少しずつシフトしてきて今の運営の形がある。この決断とシフトによって想像以上に良い事・ありがたい事が次々と起きた。

・お客様が空いてる日をラッキー!空いてた!的なゲーム的マインドで楽しんでくれる様になった。
・空いてるかどうか事前確認してくれる様になった。
・ツマミは『自分の特性を加味し腐らず管理できる物を』という観点から乾き物に徹底してきたが、ツマミの充実化のためにお客様がツマミを作ってくれるor持ち寄る様になった。
・私が飲みすぎてカウンターで寝落ちていると仲間達が代わりに店番してくれるようになった。

これらは全て自然発生的なやりとりである。
メタメタ感謝はしている事は大前提に、決して無理にオファーした事でないと思うと、バグから生まれる隙間に役割的な何かが生じ、人情に熱い人を中心にその役割をひきとってくれ、担うプロセスでは各々個人的な楽しさを重ねてくれていると言えるかもしれない。支えてくれる人々との間で『うちらコミュニティだよね』と確認しあった事は一切ないが、コミュニティ機能がスナックという業態と店主のバグ具合によって発生した感じかもしれない。私がこんな調子なので人のダメさ加減について否定したり罵ったりする様なコミュニケーションはまずされないので心理的安全性も担保されているからこそ、ラクラク・楽しいが出来るのかもしれない。誰しもが無理をしないってゆうのは大事な要素である。

key③信頼の不履行

遠野のお店全てではないが一部ではツケ文化が残っているという。実際私のお店でも何度か頼むよ、とお願いされた事がある。(もちろん常習になったら嫌なので断ったが)他店では土下座をしてまでツケで飲ませてくれと頼まれた事もあるそうだ。店主さんの中には悶々としつつも、そういう人達の拠り所を失くしてはいけないという人情で受け入れているお店さんもあるとか。決まり文句は「5日には返す」である。5日は生活保護の支給日だ。

飲み屋のカウンターでツケの話をするもんだから、気の優しいお客さんがお金がないなら貸してやる、と、お金を貸してあげたら(正確には返ってこなくても良いと思っているお金)そのお金を持った本人は直後に別のお店で大盤振る舞いしていた、なんて事もあったそうだ。

ツケは時々返済され、時々返済されない、つまり信頼の不履行があると話を聞いてわかった。ツケをした人とツケをされた人との関係について少し考察する。ツケをされた人は心底ツケをした人を軽蔑して憎んでいるかというとそうでは無い印象をもった。一度ツケをしたから見限って入店させないというケースも稀だ。その人の人生をそっくり担う事はできなくても、存在を認知し続け、どこか一端は担うつもりがある様な意思を感じる。

人間関係の希薄化や、合理的リスクヘッジ社会、なんていう日本の社会の質感はここには無いのではと思わされる。

もう一つエピソードをご紹介して終わろうと思う。

正義感のあるとあるママさんが他の店の分も私が取り返してやる!と鼻息荒くツケをした人の家まで向かったそうだ。そしたらこう跳ね返されたと。

『あんたの分は払うが、他の分は本人が来ないと返さねえ!!!』

あっぱれ、プロツケとしての強いスタンスさえ感じる回答。ツケをする側にも、逃げ隠れしないで関係性を続ける意思があるところがこのエピソードの重要な点である。

人は失敗し、裏切る、それに怒る事もあるが、どこかで人を信じている。字面でみると綺麗事だな。でも本当は背脂ちゃっちゃ油マシマシな感じなのは、既に伝わっているだろう。飲み屋業界はこれだから面白いし、わりと真面目に未来社会的に必要な業種と機能だと感じている。

まだまだイベント内でのキーワードをあげて考察したいところだがこの辺で。


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