生しぼり遠野物語

遠野にコロナが出たと言う話題は、全く予想もしていなかったタイミングで夫からもたらされた。寝起きすぐのことだった。

「遠野にコロナが出たって。しかも5人。」

私は遅かれ早かれこのウイルスはいずれ身近なところまで来ると思っていたので、あーそうなんだ、としか思わなかった。どこで発生したか?は自然な反応としてわずかながら気になったが、わざわざ人に問い合わせるほどまでもないといった感じだった。

8月も終盤、夏が終わろうとしていた。タイミング的にはお盆期間をきっかけとした事だろうと想像できた。

起床ついでにいつもするスマホでのニュースチェックの流れから、遠野のコロナについてネットサーフィンしてみる。早速「岩手県内遠野市でクラスター発生」といった内容がネットニュースで様々報じられてた。

その日、私は家から車で20分ほどかかる市街地に出て同僚や地域の人など複数の人と会う予定があった。町が、人が、雰囲気が、一変した様な気がしのは気のせいだろうか。

その後数日間、人と対面すると開口一番の話題は、たいてい遠野でコロナが出たことだった。事実を知っている様な口ぶりの人、事実を知らないがゆえに詮索する人、様々いたと思う。

発生元となった人や場所を特定した先に交わされる会話を想像すると、楽しそうな話題でもないし、なんなら不快な気持ちになりそうだったので、自ら詮索しようと思わなかった。でも詮索しなくても勝手に話をしてくる人はいるものだ。

様々な機会でこの話題に触れていった時に、噂されている方のお名前が複数名浮上してる事を知った。風の噂はいろんな歪んだ情報を運ぶ。ああでもないこうでもない、と尾ひれはひれがついたのだろう。私もかつて「妊娠したんでしょ?」「東京帰ったんだって?」と誤った情報が流れたことがある。子供もいなければ、9年ほど遠野に住み続けている。

「こうやって遠野物語は作らたんだな」と、妙な納得感を持った。山男の話は誰がどんなふうに話を広めたのか。それは、人だったのか異界のものだったのか。そんな事が頭をよぎった。

遠野に限らず人口の少ない街でコロナが出ると、どんな事が起きうるか。ネガティブなこともポジティブなことも容易に想像できる。ここは3万人を切る人口のまちだ。

お店を営んだり人と会う以上、究極のところ外出する時点で誰にでも感染リスクはある。明日はわが身かもしれない。その可能性は十分にありえる。それを思うと今回の件を過度に噂し、扱いたいとは思わない。こまめに手洗いうがいして体調管理の為にささっと寝ろ、しか今のところやれる事はない。

仮に身近な人が感染したのであれば、まずは重篤にならず安静にしていれば回復するレベルであることを心から願うし、回復後再会することを穏やかな気持ちで待ちたいと思う。

この状況によって沢山の接客業・飲食店の方が大変な状況下におかれてる。のんびり気ままなうちの店でさえもこの状況の影響を感じている。コロナ発生直後の土曜日の客数は0人だった。

コロナが日本全国に広まって以降感じていること。地域社会の経済は社会の噂にとても左右されやすい。(メディアに左右されやすいとも言い換えられるかも)

街中で働く人の中には官公庁の人が多い。彼らが仮に自粛ムードの中、夜飲み歩いていたとしよう。批判の対象になりかねないのである。あいつはいつどこでどんな人とどう飲んでいたか。そう噂されてしまう事を避ける様に、行動を慎むのである。よって、そういった方々から率先して自粛していく姿をこの数ヶ月で何度か見てきた。

コロナ以降、緊張が走るたびに客足は遠のき、飲み屋やその通りは閑散とする、を繰り返してきたと思う。酒販店さんも飲食店の閑散ぶりに連動して大変な状況になってしまう事も予想ができる。

飲食の提供以外で収益が得られ持続できる仕組み。しかもそれが一事業者レベルでない形で考えないとあかんなと思った9月1日。

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