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少女怪談  ハラッパ

 住宅街の行き止まりにあるわたしの家から反対側に坂を下って右に行くと小さな川があります。その川の向こうは広い野原で、あまり人通りもありません。いつも何かしら花が咲いていてわたしのお気に入りの場所です。

 あの日は母の日のプレゼントにシロツメクサで花冠を作っていました。お母さんを驚かせようと思ってお昼を食べた後に「お友達と遊んでくる」と嘘を言って出て来たのです。1時間くらいずっと編んでいたでしょうか。たくさんのハルジョオンも咲いていて、気持ちの良い風に揺れていました。

 もう少しで編み終わろうとした時、ハルジョオンの下で何かが動きました。カエルかな、と指で触ろうとするとピョンとはねて持っていた花冠の上に立ちました。2本の足で立っていたのはカエルではなくカッパでした。
 正確にはカッパのような生き物です。
 本で見たカッパは全身緑色で頭には水を入れるお皿が乗っていましたが、この5cmほどの緑色の生き物は頭にハルジョオンの花を乗せています。背中に甲羅もついてないし水かきもないみたいです。
 「川じゃなくて野原だからハラッパ、、、?」
 わたしは自分の思いつきに吹き出し、恐さも忘れてその小さな生き物を観察しました。目はくりっとして鼻も口も人間と同じ。

 わたしに何か話しかけているようですが、キュルキュルという音にしか聞こえません。わたしは"ハラッパ”を手のひらに乗せ、顔の近くまで近付けました。やはり何を言っているのかわかりませんでしたが、身ぶり手ぶりで小さな体を動かしている様子がかわいくて「うんうん」とうなずきました。
 すると"ハラッパ”はにやり、と笑って、小さな小さな緑の指をわたしのほうに差し出してきました。
 「ETみたい」
 映画で見たシーンを思い出し、わたしもそろそろと人差し指をハラッパの指先に近付けました。ピリッと静電気のような痛みが走りました。

 気がつくと"わたし"がシロツメクサの花冠を頭に乗せて走っていくのが見えました。
 「待って!」
 のばした手はカエルのような緑色でした。驚いてその手で頭を触るとフワフワとしています。
 どうやらわたしは”ハラッパ”と入れ替わってしまったようです。

 それで今はこうしてアザミの近くに座って、誰かが見つけてくれるのを待っているのです。


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