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Royal Docks散歩

Royal Docksは不思議な場所だ。歴史を考えると非常にロンドン的で、それでいて現在の姿はあまりロンドンらしくない場所だと思う。だだっ広くてあまり人がいない。貪るように土地を金へと変えていく魔物のようなロンドンも、前世紀の巨大な産業遺跡をどうしていいのか持て余しているといった様相だ。

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ロンドンの東の端、テムズ川沿いの湿地帯に「太陽の沈むことのない」と謳われた広大な大英帝国とその先のありとあらゆる場所から集まる物資を扱うため、三つの荷役用ドックが新設されたのは19世紀半ばから20世紀初頭にかけてだった。そのわずか50年後、コンテナ輸送が盛んになった1960年代からドックの凋落は急速に進み、1981年に商業港としての役目を終えた。現在はドック自体はウォータースポーツセンターとなっていて、周辺は巨大な展示会場やシティ空港、数多の新築高級マンションに囲まれているが、賑わっているとはお世辞にも言えない。ロンドン五輪と前後して鳴り物入りでオープンした、テムズ川を南北に渡るケーブルカーも収益が出ているのかと心配になるほど空いている。ドック南東には廃墟となった巨大な製粉所と貯蔵施設が、再開発の始まる日を辛抱強く待っている。(そのMillennium Millsはデレク・ジャーマンのThe Last of Englandが撮影された場所でもある。)

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Royal Victoria、Royal Albert、King George Vの三つのドックを合わせると、荷役用ドックとしては世界最大で、水面の面積は約1平方キロメートルあるそうだ。どうりでぐるりと周囲を散歩するには時間がかかる。深さはどれくらいのものか知らないが、一体どれほどの時間をかけて、どれほどの土を掘ったのだろう、掘りだした土はどこへと持って行ったのだろう、何人ほどの人々が、どういう方法で掘ったのだろうと考えながら周囲を歩く。ひょっとしたら工事中に大きな怪我をしたり、残念なことに命を落とした人足もいるかもしれないとも思う。それが100年も経たないうちにご用済みになるなんて。人間の努力など儚いものだと、再確認をした快晴の冬の夕暮れだった。

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おまけ

Royal Docksより上流にあったEast India Docks(1803年完成)は1967年にはすでに埋め立てられ、現在は区役所などが立っている。高架鉄道のDRLから望むと、道路のレイアウトなどからかつてのドックの形状がうかがえて、ちょっと考古学者にでもなった気分になる。そのドックの周りをぐるりと囲んで、積荷の盗難を防いでいた高い煉瓦の壁も所々に取り残されている。守るべきものはもうそこにはないというのにね。

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