からあげ弁当の話

 気がついたら食べ物の話ばかりしていますね。そんなつもりはないのですが笑
 『アド街』八潮回で、ほっかほっか大将という名前のお弁当屋さんを見て思い出したので。

 私の実家の近くには、ほっともっとがあります。それは、ほっともっとがほっともっとになる前、ほっかほっか亭時代からそこにあるのですが、かつてうちの近くには、それより近いところに、もう一つ別のお弁当屋さんがありました。そこは、ほっかほっか亭のようなチェーン店ではなく、おやっさんが一人でやっているような、寂れて黄色い暖簾がかかった、小さなお店でした。でもその店の名前も、なぜかほっかほっか亭と同じような、ほっかほっか何とかでした。小さい頃の私は、その二つのお弁当屋さんには何か関係があるのか、気になってはいましたが、結局何かがわかることはありませんでした。

 私が少し大きくなってから…中学生ぐらいでしょうか。当時私は、自分で休日の食事を調達することのほとんどない、大変にものぐさな子供だったので、ある時父親に「お昼何が食べたい?」と聞かれて、「からあげ弁当」と答えました。その時点で私は、頭の中で、ほっかほっか亭のからあげ弁当をイメージしていたのですが、帰ってきて父親が買ってきたのは、私が見たことのない、おそらくあのおやっさんのお弁当屋さんのからあげ弁当でした。
 私が、

「これ違う。ほっかほっか亭のだと思ってた。」

と言うと、父は、私の好みを全然知らなかったことに、心から申し訳なさそうにして、「あぁ、そうだったのか。ごめんな。」と言って、私は、ちょっと釈然としないまま、でも袋からお弁当を取り出しました。

 おやっさんのお弁当は、発泡スチロールの容器なのは同じでしたが、形がほっかほっか亭みたいに丸っこくなくて、もっとシンプルな四角でした。フタに至ってはただの一枚板で、それがからあげの上に乗せられて、輪ゴムで止められていました。フタの隙間からはからあげがはみ出していました。
 フタを開けてみると、ほっかほっか亭のジューシー系のからあげとは違って、もっと黒っぽい、揚げすぎてカリカリになったみたいな大きなからあげが、3つ入っていました。

 私は、ふぅん、と思って。でも、おやっさんが作ったんだなぁ、っていうのは、子供心にもなんか伝わってきました。
 それがびっくりするほど美味しくて、とか、そんな話ではないですけど。でも、これはこれでありだな、と思ったような記憶はあります。

 その後、あそこのからあげ弁当、もう一回食べてもいいな、と思い続けて、結局食べる機会がないまま、お店は閉まってしまいました。今もずっとシャッターが閉まっているだけで、別のお店に変わったわけではないので、もしかしたら仕事をやめて、二階にお住まいなのかもしれません。

 私は、あそこのからあげ弁当を一回しか食べたことないし、おやっさんにとっても、何万食も作ったうちのたった一食に過ぎないかもしれないけど。それでも私は覚えているので。今思えば、おやっさんはきっと、いい仕事をしてたんじゃないでしょうか。

 うん。私はおやっさんのからあげ弁当を、忘れないです。

 という話。


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