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ここでひとりシエスタを_002

森茉莉

 この日は自分の名前と同じ漢字でもある森茉莉のエッセイを読んでいました。喫茶店でホットミルクにピーナッツバターを溶かした飲み物と一緒に、森茉莉のお部屋の様子を思い浮かべながら。エッセイを読むようになったのは、ここ数年のお話。食べることに苦手意識のあるわたしが、食べ物にまつわるエッセイ集を購入するほどに、今までよりも身近な存在となりました。はじめは喫茶店に寄るつもりはなかったのだけど、外は暑くて気がつくと逃げるようにお店に入っていたのです。「喫茶店で文庫本を読むわたし」、なんて優雅な時間の使い方なのでしょう。自分に酔いしれるしかありません。ついビジュアル的な憧れを抱き、それが普通にできる人が羨ましかったのだけど実体験は憧れ以上の至福。なるほど。

 喫茶店の前には用事を済ませるために役所に行っていた。そこでは高校時代の友人が勤めていて、帰り際に彼女の方に手を振ると持ち場から出てきてくれた。「暇だ」と嘆きながら、久しく会っていない同級生の近況などを話してくれて、なんだかんだでお互い大人になっているなっと思った。初夏の日差し、懐かしい年頃の友人、甘いホットドリンクに森茉莉のエッセイ。思いもよらず、穏やかで優しい素敵な午後の演出でした。

 森茉莉の作品を読もうと思ったのは、やっぱりその名前。「茉莉」という字は意外と少なくて見つけると注目せざるをえない。いたってシンプル。森鴎外の作品は、教科書に載っていた「高瀬舟」の一部くらいしか読んだことがないけれど、娘に「茉莉」なんてハイカラな名前を付けるセンスは最高だと思う(母親が付けたかもしれない、そこらへんの詳しいことはよくわかっていない)。そんな素敵な父親を持つ彼女のエッセイ集。部屋に置いてある物の羅列には、ひとつひとつ丁寧に想いを寄せていて素敵。美しいものに対して、いくつになっても素直に気持ちを高揚させられることは素晴らしいことで、見習いたい。


本屋の誘惑

 わたしは目下、買ってそのままの本たちを読み進めることを目標にし続けています。まさに、巷で言う「積読」というやつ。本屋というのは、あらゆるジャンルのものが入門編からコアなところまで一同に会している、かなり特殊な空間。わたしのようなすぐに影響される人間は、その静かに広がる膨大な情報量の波に無意識のうちに飲み込まれています。あっという間に、この本屋の特殊な空気に酔わされると、購入することに満足感を覚え、自身の読むスピードと不釣り合いのまま部屋にどんどん本が増えていくことになるのです。これが積読の正体なのだ!

 わたしの好きな本屋は、いわゆる「本屋」。近頃は洒落たレイアウト、ソファースペースの充実、カフェを併設した海外スタイル、雑貨の販売など多種多様。そうではなくて、ずらりと並ぶ本棚にぎっちりと置かれた本たちの間を練り歩き、気になるタイトルや表紙を見つけたらパラパラと眺める。これが、たまらなく好きなのです。これは電子書籍では絶対にできない、まさに本屋の心地よき罠。豊かな脅威。

 大きな本屋さんであればあるほどに、いくらでも時間を費やすことができるので、遅刻をされる際はどうぞ「本屋」をご指定くださいね。


marica.

p.s. 写真は同じ喫茶店で頼んだ、甘さ控えめフルーツサンド。真ん中のキウイとピンクの石みたいな柄のお皿がかわいい。

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