海岸で見つけた瓶 AIにも特定できなかった正体
ある日、海岸で未開封の瓶を発見。
「商品名と販売時期を特定したい」
Google検索、Googleレンズ、ChatGPT、Bingチャット。
さいごに、KIRINのお客様相談室に辿り着くまで。
“海岸で見つけた瓶” の正体が判明するまでの一部始終を書き残します。
きっかけ
私はシーグラスが好きです。何を作るわけでもなく、ひたすら収集をしています。
角がとれたシーグラスが拾える場所には、石がたくさんあるため、コップや瓶などの原型を留めたガラス製品は落ちていません。
石とぶつかって割れてしまうからです。
私にとっては、「海に行く」イコール「石の多い海岸にシーグラスを探しに行く」ことですが、ふと思い立ち、シーグラスがあまり落ちていない砂浜を散歩することにしました。
自宅から海まではずいぶん遠く、極寒の2月ですが、空気が澄んでいて清々しい気持ちでした。
瓶の発見
海岸をのんびり歩いていたその時、偶然にも未開封の瓶を発見しました。
KIRINの“聖獣麒麟”のように見えます。
キャップは未開封ですが、亀裂が入っていて、中には2cmほど海水のような液体が入っています。
見たことがない瓶です。
Google検索
「キリン 昔 瓶」このようなキーワードのGoogle画像検索で、すぐに商品が判明すると思っていました。
しかし、見つかりません。
私は瓶の収集はしていませんが、シーグラスを集めていることもあり、少しだけガラスの知識があります。持っている知識をベースに検索を続け、見た目から得られる情報を整理します。
瓶のサイズ
瓶の高さは約13cm、底の直径約5.5cm、300mlくらいのサイズです。
瓶の色
この瓶は、茶色の遮光瓶です。
遮光瓶は、ビール、栄養ドリンク、アロマオイル、薬品などに使われます。その名の通り、光を遮らなければ中身に何らかの影響がある(劣化など)場合に使用されます。
ガラスの気泡
戦前戦後あたりまでは、気泡の入ったガラスが多くありました。技術が未熟だったことが理由ですが、その気泡は唯一無二であり、再現が不可能なため、「気泡ガラス」として希少価値があります。
なお、現在のガラス製品は高度な技術により、気泡がなく透き通っています。
気泡が入らなくなった年代は明確には得られませんでしたが、この瓶には、気泡がありません。少なくとも1950年代以降と考えられます。
瓶底のギザギザ
ビールなどの瓶には、底にぐるりと一周ギザギザがあります。ナーリングと呼ばれ、破損や転倒防止のためと言われています。この瓶にはギザギザがあります。
年代が古い瓶にギザギザはなく、ギザギザがある製品は、1960年以降のようです。
キャップの形
開栓時に回すと、キャップと下のリングに分かれるアルミニウムのキャップのようです。何度見ても亀裂はあれど開栓はされていません。
このキャップは、「P.P.キャップ」または「スクリューキャップ」と呼ばれ、1960年代以降に広まったようです。
飲み口のサイズ
飲み口、つまりキャップの直径は約4cmほどあり、広いと感じます。最近の商品でイメージするのはスクリューキャップのボトル缶コーヒーです。
推測
ここまでの情報から、年代は1960年代以降である点には確信を持ちました。
300mlくらいのサイズの茶色の遮光瓶で飲み口が広いスクリューキャップ。
この情報から商品の推測を試みますが、困難を極めます。
茶色の遮光瓶ということからビールかと思いましたが、サイズが小さいのが気になります。
また、飲み口が広いという点と、スクリューキャップがアルコール商品のイメージと結びつきません。
そして、栄養ドリンクにしてはサイズが大きいように感じます。
自信がないながらも、今は販売されていない炭酸飲料ではないか、と推測しました。
1960年代以降、つまり最も古くても約60年前。
100年前の情報も得られる現代で、60年前の情報が得られないはずがない。
なぜ、全く情報が出てこないのか。
検索力にはそれなりに自信がありました。
「ググって情報に辿り着けない」ということは、私にとっては由々しき事態です。
Googleレンズ
次に、Googleレンズを試します。
Googleレンズは、Googleが開発した画像認識技術です。
カメラを通して被写体を写すことで、関連度の確率が高いものが結果として表示されます。
目の前にあるものの情報を調べることができるツールとして便利です。
例として、私のデスクに置いている温度湿度計を撮影しました。
この機能を利用して、早速調べます。
その他にも明るさや背景などを変えて試しましたが、特定はできませんでした。
ChatGPT
ChatGPTに聞いてみました。
見返すと、私の聞き方が悪かった部分も目立ちますが、回答に記載された具体的な商品名を検索しても、同じ瓶は見当たりませんでした。
Bingチャット
Bingチャットにも聞いてみました。
ChatGPTと同じく、見返すと、私の聞き方が悪かった部分も目立ちますが、回答に記載された具体的な商品名を検索しても、同じ瓶は見当たりませんでした。
各キャプチャに記載されている内容は、あくまでもAIが関連する確率の高い情報を返したものです。元となる学習データが十分にない場合は、事実と異なる回答が返ってくる可能性が高くなります。
これは、「AIは嘘をつく」と言われる原因のひとつで、「データが十分にない中から確率が高い情報」を回答するためです。
AIが、自ら意図的に嘘の情報を回答しているのではありません。
今回は、この瓶に関する情報が学習データに含まれていなかった可能性が高いと考えます。
Google検索、Googleレンズ、ChatGPT、Bingチャットでは、商品を特定することができませんでした。
残る手段は、KIRINへのお問い合わせ。
しかし、“聖獣麒麟” らしきものがエンボス加工されているとはいえ、KIRINの商品である確証はなく、現在販売されていない商品です。
お客様相談室というのは、緊急性の高いお問い合わせなど、重大な場面でのご相談先というイメージがあります。
今回のような一個人が興味を持ったことをお問い合わせをして良いものか、二の足を踏みます。
KIRINお客様相談室
私は、今まで企業に対して消費者として商品のお問い合わせをしたことがありません。
まず、驚いたのは、KIRINのサイトからお問い合わせフォームに辿りつくことが容易だった点です。
世の中のいくつかのサービスでは、ユーザーからのお問い合わせを避けるために、あえて導線を分かりにくくしているサイトもあります。
KIRINのサイトはそうではありませんでした。
勝手な解釈かもしれませんが、上記の理由から、消費者に寄り添った企業だと感じたことで、お問い合わせに踏み切りました。
お問い合わせ先を選ぶ
ここでひとつ問題が起きました。
お問い合わせ先が、以下のように分かれていたのです。
ソフトドリンク・乳製品
キリンビバレッジお客様相談室
ビール・発泡酒・新ジャンル・チューハイ・ウイスキーなど
キリンビールお客様相談室
「ソフトドリンク」か「ビール」か。
自信を持った結論が出せていない現状では、どちらが良いか分かりません。
結局、確信が持てないまま「ソフトドリンク・乳製品」のお問い合わせとして、キリンビバレッジお客様相談室に相談することにしました。
お問い合わせをする
自分なりにできるだけ簡潔にまとめ、お問い合わせフォームから送信しました。
以下は、私が送信した内容です。
送信した時には、ご連絡をいただくまでに数日はかかり、「分かりかねます」というご返信がくるかもしれないと思っていました。
しかし、早速翌日にご返信がありました。
なんということでしょう。
翌日にはご返信があったということ。
関係部署に確認してくださったということ。
画像からさらに調査をしていただけるということ。
まさか…という驚きと感動で、心が震えるような思いでした。
「このようなお問い合わせに早々に対応してくださった」という事実に、感激しました。
図々しいことながらも、瓶を撮影して送信しました。
すると、翌日にご返信をいただきました。
ご対応の早さに驚きます。
なんと、キリンビールで取り扱いされていた商品でした。
ソフトドリンクという推測が外れてしまいました。
そして、キリンビバレッジお客様相談室から、キリンビールお客様相談室に引き継いでご連絡くださったのです。
丁寧なご対応に感動しました。
続きをご紹介します。
瓶の正体が判明
ついに…ついに…
瓶の正体が判明しました。
1985年以降発売の「こきりん」もしくは「こきりん生」
それがこの瓶の正体でした。
「商品名と販売時期を特定したい」
ついに、その目的が達成できたのです。
300mlくらいと思っていたサイズは250mlでした。
ガラスは、ペットボトルや缶よりもボリュームがあるため、サイズの推測も誤っていました。
商品名や販売時期が判明したことをとても嬉しく思っていますが、現在販売されていない商品のお問い合わせに、真摯にご丁寧に対応くださったことに大変感銘を受けました。
感謝とお礼の言葉、そして、不躾ながらも記事として公開して良いかを確認したところ、快くご承諾いただきました。
そして、メールの最後は、あたたかい言葉で締めくくられていました。
まさかメールでのやりとりで、読後の余韻が残るあたたかな気持ちになるとは思っていませんでした。
心からの感謝をお伝えしてやりとりを終了しました。
メールの一部を省略したため、すべては伝わらないかもしれませんが、随所に思いやりとご配慮を感じる内容でした。
きっと、結論だけをご返信をいただいても、不満を持つことはなかったと思います。
しかし、感銘を受けることはなかったかもしれません。
これから先、いくつかの選択肢があったときには、KIRINの商品を選ぶだろう。
これが素晴らしいユーザー体験というものなのか。
余韻を感じながら、そんなことを考えていました。
何かのご縁で発見した「こきりん」もしくは「こきりん生」
大切に保管します。
KIRINという会社
KIRINと言えば、知らない人はいない会社ではないでしょうか。
私は、一番搾りなどのビールや生茶、午後の紅茶など、愛飲している商品がたくさんあります。
今回のお客様相談室の方々とのやりとりで、消費者に寄り添うことを大切にされている企業という印象が強く残りました。
また、Web業界で働いているという職業柄から、サイトは何度も見たことがありました。
2022年12月、デジタル庁が「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現するために、「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を公開しました。
そこに記載されている一部の対応をサイトに導入されているため、多様性を重視されている企業として注目していました。
また、今回の出来事をきっかけに調べていたところ、noteを運用されていることを知りました。とても綺麗に分かりやすくまとめられています。
noteの中の「こんにちは。お客様相談室です。」という記事を読むと、私が感じたあたたかなご対応が伝わるかもしれません。
丁寧な運用をされていて、柔らかな印象です。
関係者の方が、私の記事をご覧になることはないかもしれませんが、この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
ご対応いただいた方々、関係者の皆さま、本当にありがとうございました。
※本記事では敬称を略させていただきました。
当時のCM
「こきりん」について情報を検索しました。
今回と同じキャップの画像は見つけられませんでしたが、「キリン こきりん」でGoogle画像検索をすると、同じボトルの画像が表示され、ウキウキしました。
公式ではありませんが、当時のCMがYoutubeにありました。
「こきり~ん」
なんて可愛らしい響きなのでしょう。
当時のCMを観た方は、一度聞くと忘れられない響きだったのではないでしょうか。
数十年前の家族団らん。テレビから「こきり~ん」が流れるその様子を想像すると、とても楽しい気持ちになります。
「小さくても中身はキリン」
CMの最後に表示されています。
通常よりも小さいサイズ(250ml)のキリンビールであることが、ストレートに伝わるコピーです。
背伸びをしているような、可愛い印象を受けました。
とても好きです。
販売地域
この動画の最後に、「販売地域 近畿地方(三重県を除く)」という文字が見えます。
私がこの瓶を見つけたのは、近畿地方のとある海岸です。
全国でも販売されたかどうかの情報は見当たりませんでした。
地域限定商品だったと仮定すると、情報が少なかったことも頷けます。
事実がどうであったかよりも、いまは数十年前に思いを馳せて楽しもうと思います。
追記:キリンビールお客様相談室ご担当者様より以下の情報をいただきました。
デスクにパソコンがなく、灰皿がある。さらに、ダイヤル式の電話機。
現在の一般的なオフィス環境とはずいぶん異なる昭和の雰囲気です。
パソコンがない時代はどうやって仕事をしていたんだろう。
今は当たり前のように日々パソコンを使用しています。
数十年後の未来の人々は、「昔の人はパソコンでどうやって仕事をしていたんだろう」と、言っているでしょうか。
「男の句読点」
インパクトのあるキャッチコピーです。
句読点は、句点と読点であり、句切りの符号。
「一息しよう」というメッセージを感じます。
1本目の動画の「疲れがとれたなぁ」という台詞。2本目の動画の清掃している人や、窓の外の様子から感じる夜の深い時刻。
「企業戦士」という言葉が使われていた時代でしょうか。
この頃に販売されていた商品が自分の手元にある、そう考えると感慨深い気持ちになりました。
さいごに
ふと海岸で拾い上げた瓶から、このような展開になるとは思いもよりませんでした。
今は、幸せな気持ちで心がいっぱいです。
古き良き時代、最新鋭の技術。
色々な言葉や表現がありますが、どちらかではなく、どちらも大切にできたら良いなと思っています。
アナログにもデジタルにもそれぞれ良いところがあり、人にもAIにもそれぞれ素晴らしいところがあります。
古いものを大切にしながら、新しいものの恩恵も受け、これらがバランス良く融合して、より良い世界・より良い未来になることを願っています。
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