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隠しと飾りの技術

鮨職人の技には、表には見えないが味わいに大きな影響を与える「隠し包丁」と、目で楽しむための「飾り包丁」という二つの側面があります。この技術がもっとも顕著にあらわれるのが、剣先イカという鮨ダネです。剣先イカの弾力ある身には、見えないほど細かな切れ目が施されており、食したときにその柔らかな甘みが自然に広がります。これが「隠し包丁」の力です。視覚的にも美しく整えられたその姿は、「飾り包丁」による華やかさで、口にする前の期待感をいっそう高めてくれます。

この鮨の芸術ともいえる包丁さばきを楽しむ瞬間に、シャンパーニュ「ボーモンデクレイエール グランキュヴェ」を合わせると、さらなる感動が待っています。このシャンパーニュもまた、ブレンド技術において「隠しブレンド」と「飾りブレンド」の両方が見事に活かされています。

「隠しブレンド」によって、複数の品種やヴィンテージが巧みに組み合わされ、飲んだ瞬間に感じる複雑な味わいの層が生まれます。まるで剣先イカの隠し包丁が食材の真髄を引き出すかのように、シャルドネのフレッシュさ、ピノ・ノワールの力強さ、そしてピノ・ムニエの果実味が絶妙なバランスで口の中に広がります。

一方「飾りブレンド」は、視覚的な美しさと泡立ちのきめ細やかさにあらわれています。グラスに注がれたときの黄金色の輝きと、泡が立ち上る様は、鮨の見事な「飾り包丁」に通じる美しさです。まさに、視覚と味覚が一体となり、シャンパーニュと鮨が織りなすハーモニーを楽しむことができるのです。

シャンパーニュと鮨がともに「隠し」と「飾り」の技術によってつくり上げられていることを考えると、このマリアージュは職人たちの長年の技術と情熱が凝縮された芸術品であると感じます。剣先イカと「ボーモンデクレイエール グランキュヴェ」は、隠れた技と美しい演出が共鳴し合い、夜のひとときを一段と特別なものにしてくれました。

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