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『CROSS DRESSER』Vol.8

本作は女装How toメールマガジン『CROSS DRESSER』をリライトしたものです。


◆How to メイク:アイブロウ〈4〉

私は小学校を卒業するまで、自分の眉が薄いのは不馴な床屋さんが誤って剃ってしまったからだと思っていた。中学生になって、それは床屋さんのせいではないと解ると、こんどはその薄い眉が不本意でならなかった。ヘアースタイルに命を賭け整髪料で頭をべたべたにしていた頃である。
 
ミクロゲンパスタを試みたのもその頃で、てかてかのおでこを洗顔クリームで洗ったあと、私はミクロゲンパスタを両の眉毛に擦り込んだ。が、今日塗れば明日生える式の即効性を期待していた私には、継続的に使用しなければいけないという認識も根気もなく、型通り三日坊主で挫折してしまった。これでは効果が顕れようはずもなく、いぜん眉は薄いまま今日にいたっている。
 
その薄い眉がまさか幸いしようとは、人間万事塞翁が馬とはよく言ったもので、それかあらぬかこの眉講釈にはオチがある。女装者の多くがそうであるように私も女装のときかつらを使う。私のウィグは毛長60センチのストレートロングでフロントは前髪をまぶたの上で切りそろえたバングスタイルになっている。
 
黒柳徹子さんがそうであるようにそれを着けると眉毛は完全に隠れてしまう。外見そとみには有るのか無いのかさえも分からない。それでも手抜はしない。あっぱれこの心掛け、心意気なくして女装はとうてい勤まらない。   

◆Nightcap〈8〉
地下鉄の改札口を出たあたりから私は緊張していた。この駅から徒歩3分のところにあるはずの女装専門店は、いわばその種のメッカである。とうぜんそこに通う愛好者たちはこの駅を使う。
 
地上への出口に向かいながら私は周囲の女性たちが気になってならなかった。すれちがう女、私を追いこしていく女、電話する女、切符を買う女、柱のそばに立つ人待顔の女……。そのなかになにくわぬ顔して女装者がいる。そんな疑心を抱くくらい私は初めての巡礼に期待もし緊張もしていた。
 
なるほど店はすぐに見つかった。看板はきょうび新橋カラス森口の裏道でも見かけない蛍光灯入りスタンド看板。発光した黄色のプラスチィクカバーに黒い切り文字で店名だけが示されている。それを目差す人以外、なんの店だか分らないという看板。

Thanks reading, See you…



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