見出し画像

第4章-2 (#21) 星ケ丘駅[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 こんなことで連絡したら、浩緋はるひにウザイと思われそうで、ずっと我慢していた。親友の浩緋にさえ、勇気をふり絞らなきゃ電話ひとつできない。浩緋は、朔玖さくと同じ町まで電車通学をしている。言語聴覚士になりたいと、遠くても福祉科のある高校を選んだからだ。浩緋なら、朔玖の様子を知っているかもしれない。

 星ケ丘駅で電車が到着するのを待っている。5時14分着。後2分か。秒針がカチカチと時を刻む速度を、とうとう胸の鼓動が追い越した。もう心臓が破裂しそうだ。

「もし朔玖が乗ってたら、猛ダッシュで改札抜けてくるから」

 そう約束した浩緋を信じていないわけじゃないけど、もし朔玖がいたら……

 ガタンガタン……電車がホームに入線する音が聞こえてきた。はぁ。緊張する。

 プルルル……発車ベル。いよいよだ。電車を降りた人の波が改札から流れてくる。待ち合い室のベンチに後ろ向きで座ったまま、人の流れを気配で感じている。

月桜るな!」

 この辺りでは見慣れない制服姿の浩緋が笑っている。

「残念! 朔玖いなかったよ」

 ほっとした。逢いたかった。どっちなんだろう。とりあえず、ほっとした。

 隣接する駐輪場まで歩くと、浩緋が2階に案内してくれた。屋根付の2階建ての駐輪場は、ざっとみて500台は停められそうな広さだ。

「この辺だと思うんだよね。あった? 色、赤だっけ? きっと学校のステッカーとか貼ってあるよね?」

 浩緋によると、朔玖がこの辺に自転車を停めているのを見たことがあるとのこと。

「あった! 見つけた! これだ!」

「まだ帰ってきてないみたいね。どうする? 次の電車待ってたら逢えるんじゃない?」

 駅チカの古びた喫茶店で待機することにした。ここなら駅から駐輪場に歩く人が見える。

 浩緋の話では、学校から急いで駅に向かっても、これより一本前の電車には間に合わないそうだ。朔玖の学校も、その時間の電車には乗れないと思うと。今の5時14分か次の5時57分。遅くて6時26分。三本のどれかで帰ってくる可能性大。朝は浩緋と同じ7時5分だって。

「そんなに朔玖が好きなの?」

「うん」

「ふーん。月桜の気持ち。ぜんぜんわかんない。そんなに朔玖のどこがいいの?」

 どこがいいの?って……責められてるみたいで傷つく。泣きそう。

「そんなに好きなら、朔玖に手紙渡してあげようか?」

 ガタンガタン……プルルル……

 5時57分の電車が星ケ丘駅を出発した。駅から出てくる人の群れに朔玖の姿は見つからなかった。

「毎日、駅でストーカーしてれば朔玖に逢えるんじゃない? 手紙の件は、月桜が決心できたらいつでも連絡して」

よろしければサポートお願いします。みなさんの応援が励みになります。