第1章-5 (#5) かわいいふりして[小説]34年の距離感 - 別離編 -
あれからずっと後になって、噂の発端は和乃の軽はずみな発言が原因だったことを知った。
「長濱くん。かっこいいよね」
「知らないの? 長濱は月桜と付き合ってるんだよ」
わたしも長濱くんも和乃も、ひとクラスしかない小規模小学校の出身だった。クラス替えがなく、クラスメイトも変わらない小規模校ともなれば、6年間親密な時間を共有している。同小出身の和乃の話を、長濱ファンの女子たちは簡単に信じ込んでしまったようだ。
和乃はメガネが似合うインテリ女子で、恋愛にキャピキャピするような女子とは一線を画していた。だからこそ和乃の発言は、信憑性のある情報として広まったのかもしれない。
和乃から一人歩きしていった噂は、長濱くんのことが好きだった幸冬まで辿り着いた。そして、幸冬の怒りと融合して、大きな爆弾へと進化していった。
噂を聞き付けた幸冬は激昂した。騙された。裏切られた。蔑ろにされた。概ねこんなところだろうか。月桜はあのとき嘘をついて、隠れてこっそり長濱と付き合っていたんだ。怒りで逆上した幸冬は、信じていたのに裏切られた可哀想な自分を、頭の中で作り上げてしまったに違いない。かわいいふりして、あの子は嘘つきで、陰で何しているかわからない。小学校のときは、実は裏番長だったんだよ。被害者と化した幸冬は、あることないこと妄想ストーリーを言いふらしたようだ。
寿吏亜も、幸冬と同じ6組だった。そうか。そういうことか! いや。寿吏亜だけじゃない。朔玖も1年生のとき6組だった。あのときの朔玖、みんなと同じように、興味本位でからかいたいだけだと思ってた。もしかして朔玖は……
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