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第2章-5 (#11) 幽霊じゃないよね?[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 いつなら朔玖さくに話しかけられるだろうか? 朝からずっとタイミングを見計らっている。昨夜、何度も朔玖に電話しようとしたけど、どうしても最後まで番号が押せなかった。ひとりリベンジは、無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始め、放課後までのタイムリミットとの闘いに変わっていた。

 5時間目は、厳しくて有名な担任の理科だ。すっかりと担任に洗脳され切ったわたしたちは、それが厳しいかどうかなんて麻痺している。アイツが作るノートの見本を、一字一句、イラストに至るまで完コピし、出された課題をできた順にひとりひとり見せにいくのが、お決まりの授業スタイルだ。

 勉強できる組は、何番目にできたかっていうプレッシャーと引き替えに、その後の自由も約束されている。中盤ともなれば、アイツの前には行列ができ、優等生は自習し、できない奴は周りに助けを求め、列に行き交う生徒で出歩いても目立たず、理科室は地味にざわついている。

 今なら絶好のチャンスだ。ちょうど近くを通りかかった朔玖を呼び止めた。振り向いた朔玖に小声でボソッと呟く。

「幽霊じゃないよね?」

 冗談で軽く流されると思った。「何言ってんの。バカじゃねえの」そう笑われると思った。それでもよかった。言えればそれでよかった。だけど朔玖は、一晩中、悩みに悩んで生み出した渾身のフレーズを、真っ正面から受け止めてくれた。

「そんなに心配しなくても、ちゃんと学校に来るから」

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