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第2章-3 (#9) ふたりきりの教室[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 任意という名の強制加入である部活動は、運動が苦手なわたしには毎日が拷問みたいなものだ。引退まで後3ヶ月。なんとかのらりくらりやり過ごしたい。学級新聞を作るという大義名分を使っては、放課後にひとり教室に残っていた。廊下では数名の男子がうだついている。きっと同じように部活に行きたくないのだろう。

 その中に、同じクラスの男子は朔玖さくしかいなかった。クラスメイトが他に誰もいないからか、朔玖が教室に入って近寄ってきた。

月桜るな。ひとりで何やってるの?」

「これね。学級新聞。新聞コンクールに出したいの。もうすぐ締切だから忙しくて……」

 忙しいだって。ほんとは部活サボってるだけなのに。

 朔玖は前の席の椅子に反対向きで座り込んだ。

 朔玖……顔……近いよ……

 朔玖まで机ひとつ分。西陽が差し込む放課後。ふたりきりの教室。胸の高鳴りが止まらない。後から後から好きが溢れてくる。ねぇ。キスして……

 現実は、そんな甘いムードとはほど遠かった。朔玖は部活をサボる合間の、ただの暇つぶしに過ぎないのだろう。さっきからずっと他愛もないおしゃべりを続けている。

「月桜はさぁ。幽霊って存在すると思う?」

「うん。いるよ。いると思うよ」

 幽霊はいるか、いないかって。そりゃいるでしょう。だって見たことあるもの。心の中でそう呟きながら、わたしは小さい頃に見た幽霊の説明をし始めた。

「ちっちゃい頃にね。枕元に立ってたの。白っぽく光っている女の人が……」

 寝ぼけてただけじゃない? 夢見てただけじゃない? 信じてくれない人も多いこの話を、朔玖は黙って頷きながら聴いてくれた。

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