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第3章-6 (#18) ささやかな復讐[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 翌朝、学校に行くまでは、恋のライバル宣言を、和乃かずのは真っ正面から受け止めてくれたと思い込んでいた。公言=フェア=正義だと信じて疑わなかった。

 昼休みに和乃から渡されたメモの切れ端には、まったく想像もしていなかった強い怒りのメッセージが記されていた。

 “朔玖さくが誰を好きかなんてわからないよね?
 わたしが朔玖を好きだなんてわからないよね?
 勝手に決めつけないで!
 月桜るなのこと許せない!
 月桜とは絶交する!”

 和乃の強烈な怒りのエネルギーから、自分がやってしまったことの重さが伝わってくる。

 和乃はインテリでクールな女の子だった。恋に夢中になっている乙女たちを、斜め上から冷やかに見ている。いつも、自分はあのたちとは違う、という雰囲気を醸し出している。

 つまりわたしは、和乃が拒んでいた恋の世界に、和乃を無理やり引きずり込もうとしたってことだ。その境界線の上で、和乃はあちら側に必死にしがみついている。なりふりかまわず抵抗するには、月桜を断絶することが一番手っ取り早い。

 朔玖が誰を選ぶのか? それは朔玖が決めること。だから「フェアに戦って」と言ったんだよ。だけど、その言葉の裏側にあるわたしの優越感を、和乃はしっかりと感じ取っていた。

 朔玖は月桜が好きだと思っている。表向きはフェアだといいながら、どうせデキレースだと思っている。告白したら、朔玖は気持ちを受け止めてくれると信じている。友だちの気持ちに気づいていながら、抜け駆けした悪い子になりたくないがために、フェアなんて正義感を振りかざしているだけだ。

 もっというと、いい子のふりして、わたしは負ける和乃が見たい。あのときの苦しみのささやかな復讐だ。自分の心の内側にある、傷つく和乃を嘲笑いたいという復讐心。和乃からのメモの切れ端が、無意識に溜め込んでいた醜い怨みの感情に気づかせてくれた。

 絶交宣言。プライドを傷つけられる前に自己防衛するのは当然のことだよね。わたしは和乃に、なんて酷いことをしてしまったのだろう。こんなわたしは、朔玖に告白する資格なんかない。和乃に誠意を見せる唯一の方法は、朔玖を諦めること以外ない。

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