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第3章-7 (#19) エール[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 和乃かずのに許してもらうことばかり考えるようになった。謝ったくらいで解決できる問題じゃない。悩んでも悩んでも、行き着く答えはいつも同じ。サクヲアキラメル。その一方で、心が割れるように叫び続ける。朔玖さくが好き。好き。好き。

 高校受験の私立組は一足先に進路が決定し、県立組との空気感は真っ二つに割れていた。進路が決定している美琴みことは、県立組の焦りなんておかまいなし。後ろから背中を突っついてくる。

月桜るな。バレンタインだよ。チョコあげなくていいの?」

「まだ受験終わってないから。それどころじゃないよ」

 それどころじゃないのは受験のせいじゃない。心の中で呟くと、美琴が別の提案を投げかけてきた。

「朔玖に『明日の試験がんばって』って言ってあげようか?」

 心が揺れた。明日は朔玖の本命校の入試だ。朔玖が今まで猛勉強してきたことは知っている。成績もぐんぐん伸びたことも知っている。それでも、朔玖の学力はおそらく合格ギリギリのレベルだ。

 電車で一時間近くもかかる。友だちもいない誰も知らない環境。超難関の国立校。偏差値で輪切りにされた高校を選択するだけのみんなとは違う。朔玖の信念の強さに憧れる。

 応援したい。朔玖を諦めると決めたのに。意志薄弱な自分を見ないふりして「人としてリスペクトしている」なんて言い訳を見つけて、美琴の提案に小さく頷いた。

 美琴はくるっと後ろを向いた。今、朔玖に話しかけていることを、背中で感じている。

「言っといたよ。『うん』って頷いてた」

 みるみるうちに頬が赤らんでいく。美琴にからかわれたけど、そんなことはどうでもよかった。こんなにも美琴のお節介がありがたく感じたことはない。合格ギリギリ。わかってる。わかってるけど、不思議と落ちる気がしない。大丈夫。わたしにはわかる。朔玖。大丈夫だよ。

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