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10.コーコーセー的イベント罪 #絶望カプ

「先輩、なんですかあれですか友達多い自慢ですか」

 進藤が俺の左足を見て言う。

 缶ビールとグラスの焼酎をぶつけあう。今夜はちょっとした前祝いなのだ。

「……お前性格歪んでるよな。みんなから俺への暖かいエールじゃないか。確かにまあ、人徳とも言えるがなー」

 足の怪我が治るまで、独身寮に仮住まいしている俺の部屋。仕事着のスーツから半パンに履き替えるとギプスが目立つ。

 明日、ようやくギプスが取れるのだが、誰が始めたか見舞いに来てくれた知人友人が励ましのメッセージを寄せ書きしてくれた。その数、その内容はもはや無法地帯。グラフィティみたいな放送禁止用語的スラングもありそうだ。一応俺警察官なんですけど。

 昨日、円が差し入れてくれたおでんがやっと温まったようで、進藤が鍋ごと運んできてくれる。

「円さん、頂きます! 俺、たまごー!」

「あ、俺、大根と餅巾着な」

「それにしてもすごい数の書き込みですねー。なんて書いてんのかもはや読めないですよ。いい大人がギプスこんなにして恥ずかしいったらないです。こんなのDKイベントだし」

「でぃーけー?」

「男子コーコーセーのことです。知らないんですか」

「へー」

「女子高生はJKでしょー?」

「あー、ハイハイ。それはAVのタイトルでよく見る」

 納得する俺を、進藤が無言かつ冷めた目で見ていることに気付いて、「なんだよ、あれだよ! 押収物とかでよく見るなーって話じゃん!」

 今の言い訳がちょっと見苦しかったかもしれないことは否定しない。気を取り直して話を戻す。

「あー、これな、ギプスな、うんうん、部活でケガしたら絶対書かれてたよなー。絶対優勝とか、弱肉強食とか謎に四字熟語多めのな」

「かくいう俺も高二の時、腕を骨折して、同じような落書き攻めに遭ったんですが」

「おい、俺のこれは断じて落書きではない」

「その中に紛れて『好き』って書いてくれた女子がいたんです。それがきっかけでその子と付き合うことになったと言う青春の思い出」

「甘酸っぺー!」

「あああああ!」

 酒の肴にギプスの落書きを眺めていた進藤が声をあげる。

「な、なんだよ?」

「いえ、なんでもありません。あ、俺、ちょっとトイレに」

 そう言って、部屋を出ていく。

 足を大きく投げ出した格好で、一人になった俺は焼酎をちびっと舐めてからグラスを置いた。

 実は昨日、円もなんか書いていた。

 その頃はもう悪戯が過ぎて、落書き(けして落書きではない、俺へのエールだ)も書かれすぎて、ペン売り場の試し書きの紙みたいになっていて、辟易していたからされるがまま放置していたが。

『後先考えないで無理するからこんな目に遭うんだ』とか『全快してももう席がないんじゃないか』とか可愛くないことばかり言いながらペンを握っていたので、その時はハイハイとあしらったけれど。

「いてて、足の裏のとこ、見にくい……」

「先輩」

「うわっ!」

 いきなり進藤に声をかけられ、椅子から転げ落ちそうになってしまった。

「また骨折しますよ?」

「なら、ビビらすな」

「ちなみに俺が見た限り、それらの中に好きと言う文言は見当たりませんでしたから」

「進藤! お前、まじで性格クズだな!」



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