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Look Who's Back: ヒトラーを見つけたママが出してくれたサクサクのやつ

noteでちらほらレビューがあがっていたドイツ映画「帰ってきたヒトラー」。最終的にSaoriさんの記事を読んで興味が湧き、見てみることにした。Netflixにあがってます。

英語のタイトルは「Look Who's Back」。ドイツ語のタイトルは「Er ist wieder da」、多分「He's back」的意味?ドイツ語のほうが「やつが戻ってきた」っぽくて、英語は「ちょっと!誰が戻ってきたと思う?」っぽいニュアンスになっている。

なぜだか現代にタイムスリップしてきたヒトラー。当然周囲はそっくりさんのモノマネコメディアンだと信じて疑わず、テレビのお笑い番組に引っ張り出されて、ネットの力もあり、あれよあれよと人気者になる。現在のドイツが自分の理想と随分かけ離れたものになっているのを知ったヒトラーは、メディアの力を利用して、政治的カムバックを果たそうとする話。

コメディというか、satire(風刺)映画で、現実のドイツとフィクションを上手く混ぜて作ってある。ヒトラーが街に出て、ドイツの現状についてどう思うか人々に聞いたりするシーンはガチ。みんなの素のリアクションが映し出される。

つい現代に現れたヒトラーが言っていることが一理あるように感じてしまうのは、今の世の中や政治がゴニョゴニョしている中で、ドイツを豊かに繁栄させよう、ドイツ国民の暮らしを良くしようという一つ筋の通ったアイデアを迷いなくドン!と見せつけるカリスマがあるからかもしれない。

しかしそれがどのような犠牲や代償に基づくものであるのかを、人々は忘れがち。最初にヒトラーを見つけてテレビ局にひっぱり込んだファビアンは、結局ヒトラーのユダヤ人に対する発言を聞いて彼の本性にハッと気づいてしまった訳だけど・・。

ものすごくナイーーーーブな感想だけど、誰も排斥することなく、戦争も起こすことなく、皆がともに幸せに繁栄できる方法、無いのかな。タイムスリップしてきたヒトラーが、天使みたいな人になっちゃって、その政治能力をそういう方向に向けてくれるんだったらいいのに。

実際ヒトラーが街の人々と話すシーン、道行く人達は結構笑顔で手を振ったり、一緒にセルフィーを撮ったりしている。それは彼を支持しているとかではなくて、長年タブーとされてきたこのキャラが、こんなにきっぱりと目の前に出てきたことに対しての、戸惑いも混じった面白さを感じているのもあるかもしれない。

ヒトラーにドイツの現状がどうかを話すシーンでも(やっぱり移民の話が多かった)目の前にヒトラーというキャラがいるからテンションが上がってついぽろっと色々言っちゃってるみたいな部分もあるんじゃないかと見受けられたけれど、結局心の中からこうやってポロッと出てしまう不満や鬱積の気持ち、それをわかりやすく拾ってくれるヒトラーに、彼がどんなことをした人物であるか認識しているにも関わらず、人はこうも簡単になびいてしまうんだろうか。

ヒトラーも「私を選んだ全てのドイツ人の中にヒトラーはいるのだ」みたいなことを映画の中で言っていたのがゾォっとする。まるで冗談みたいに登場して、実際お笑い番組のネタにされまくっていたのに、あれよあれよという間に大統領候補になっちゃったおっさんがいる国に住んでる身として、笑えるんだけど、色々笑えない話だった。

そして今の世の中、こういう人物が受け入れられやすい風潮になっているのだということを思い知らされる映画であった。歴史は簡単に繰り返されちゃうんだろうか。しかもこんな短期間で。ああ、嫌だ。

・・と暗澹たる気持ちで、この映画を見た後ドイツ料理屋に行ってしまった。

テレビ局をクビになったファビアンが、道端で見つけたヒトラーをネタに番組を作ろうと、撮影資金をママにねだるシーンで、美味しそうなウィンナーシュニッツェルを食べているのを見てしまい、つい・・。

別に映画見ながら一生懸命食べ物のシーンを探してたわけではないんだけれど、食べ物のことばかり考えている身としては、人が何か食べているとついそこに目が言ってしまう!!

ファビアンはいい年してママとまだ同居中。テレビ局をクビになった時も、シクシク泣きながら自分の撮影したビデオを見ているファビアンに、ママが熱いお茶と、ゆで卵の薄切りが乗ったサラダみたいな夜食を差し入れしてくれる。ドイツではお昼は結構ガッツリ、夜は火を通さないようなサラダとか、軽めの食事をとるというのを聞いたことがあるから、あれが普通のディナーだったかもしれない。

ファビアンが撮ったビデオの中に、タイムスリップしてきたヒトラーが写り込んでいるのを最初に見つけたのもこのママである。

お花屋さんをやっているママが花のアレンジをしている横でファビアンがランチに食べてたシュニッツェルは、かなり厚切りのレモンが載っている。これもママが作ったんだろうか。なんだかこれだけのシーンなんだけど、こいつマザコンやろ、というのがうまく浮き出てくる感じがする。

ママのウィンナーシュニッツェルは、サイドディッシュも何も無し、お肉とレモンだけ。うちの地元のドイツ料理屋さんでは、大きめのやつが2枚ドン、そしてサイドディッシュにサラダとローストしたポテトもついてきた。

肉はハンマーみたいなのでガンガン叩いて薄く伸ばすので柔らかく、揚げたてはサクサクで、面積はあってもペロッといけてしまう(実際は6歳の娘と分けましたけど)。

ああ、シュニッツェルといえばサウンド・オブ・ミュージックの歌の歌詞に出てきたなあ、そこではヌードルが一緒に出てきたなあとか、

村上春樹のエッセイにロンメル将軍がウィンナーシュニッツェルを食堂車で食べる話があったなあとか、

昔国語の教科書に載っていた「オツベルと象」では雑巾ぐらいのビフテキが出てきたけど、こんな大きさだったのかなあとか、

そういえばヒトラーは映画の中で料理番組を色々ディスってたなぁとか(ネオナチのビーガン料理ショーが出てきたけど、Nipsterといわれるヒップスター系のスタイリッシュなネオナチがいるんだそうだ・・)、

ヒトラーがタイムスリップしたといえば、中学の文化祭で、「現代の日本人が昔にタイムスリップしてヒトラーと入れ替わってしまい、歴史を変えるんだと息巻くも、結局権力に目がくらんでヒトラーと同じことをやってしまう」っていう劇の監督をやったなあ、あれは中学生にしてはよく出来た話だったけど、何かのパクリだったのかなあ、台本書いたS君は元気かなぁとか、

現代の日本の街角に同じように東条英機か誰かがタイムスリップしてきたという設定で、道行く人と話させたらみんなどんな反応をするのかなぁとか、

大統領選までもう2ヶ月もないけれど、11月以降の世の中は、どうなっちゃうんだろう、この映画みたいに、今はまだ戸惑いながらも笑って見ているだけだけど・・

と混沌と色々なことを考えながら、シュニッツェルをサクサク2枚平らげましたとさ。

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