common sense?(そんなのジョーシキ)
エリートで完全主義者の元彼は私のやることなすことに文句を言った。元彼に振られた後、私はしばらくの間、すっかり自信を失っていた。
自分の感覚がおかしいから好かれなかったのだと。
でも何がどうおかしくて、何を直したらいいのかもわからず途方に暮れていた時に知り合ったのが今の彼だ。
彼はオレ流の美学を持っているようで、それが私には魅力的に感じられた。この人の感覚にならついていけるかもしれない。
ところが、彼も元彼とは全く違う考え方ながら、事あるごとに私のやることを批判した。例えば同僚がやりきれない仕事を手伝って残業をする、例えば出前でとったラーメンのどんぶりを軽く洗って出しておく、彼はそれらのことを「そんなのやる必要ない」と言う。
「でも」と反論する私に彼は言う。「常識なんだよ、それがジョーシキ。まったくおまえは常識はずれだなあ」
‘コモンセンス’と発音よく言った後、彼はからかうように、シーィ、オーゥとアルファベットの綴りを口にした。
頭が混乱して不安になる。私の感覚はやはり大きく常識からズレているのだろうか?
ああ、この恋愛もまた私の常識はずれのせいで終わってしまうかもしれない。
そう思うと心が沈んだ。私はどうしたらいいのだろう。
ある時、ATMで通帳記入をしたら残高が数千円になっていた。一年は働かずに暮らせるくらいの額を貯めていたはずなのに。暗証番号を知っているのは彼だけだ。
私は彼の部屋に向かった。部屋に入り寝室のドアを開けると、彼が知らない女と毛布にくるまっていた。
私と目が合うと彼はニッコリ笑った。その唇が『大人のジョーシキ』と動き、指を動かして、私に出ていくようにと促した。私の中で何かが弾けた。ぬぅぉぉぉぉ~~っ!!
「あんたのジョーシキなんて知ったことか!」
私は叫び、彼に向かって突進していった。
了
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