見出し画像

新型コロナウィルス騒動を通して、魔女狩りについて考えてみる

1.はじめに

今回の新型コロナウィルス騒動については、世界史と関連付けて考察できることが、いろいろあります。

昨年2020年3月13日の「東京新聞」朝刊の投書欄に、中学生の投書が載っていました。バスの中で花粉症のせいでくしゃみをしたら、マスクをした上に手で押さえていたにもかかわらず、居合わせた乗客に「コロナなんじゃないの? 次のバス停は病院だから降りろ」と言われた、というものです。

これを読んで思い浮かべたのが、魔女狩りです。


2.魔女とは

そもそも「魔女」とは、悪魔に魂を売り、その手先として人々に害をなすような妖術を使うとされる存在です。意外と知られていませんが、「魔女」と言っても男性も含みます。男性の魔女(?)については、「魔女男」というすごい訳を使うこともあるようですが、「女性も男性も子どもも含めて魔女」と考えてください。

ちなみに、「男性の魔女は魔法使いでは?」と思われる方もおいでかと思います。確かに男性が「魔法使い(wizard)」で、女性が「魔女(witch)」という単純な使い分けもあります。しかし英語でも日本語でも「魔女(witch)」には黒魔術を使うイメージが強いのに対し、「魔法使い(wizard)」には白魔術を使うイメージが強いのですよ(時に黒魔術を使うこともありますが)。「黒魔術を使う男の魔法使い」を指す、warlockという単語もありますが。

「魔女は悪い魔法しか使わない」からこそ、ドイツの児童文学作家プロイスラーの『小さい魔女』では、人間にとって良い魔法を使った「小さい魔女」は魔女仲間から、悪い魔法使いとして糾弾されるわけです。


3.魔女狩りとは

その「魔女」をあぶりだし、迫害を加えるのが魔女狩り(witch hunt)です。中世にもあったようですが、宗教改革を経て、カトリック側でもプロテスタント側でも盛んにおこなわれました。特に16世紀・17世紀に盛んにおこなわれ、18世紀末にようやくやみました。


4.「魔女」の判定基準

魔女の疑いをかけられたら、ほぼ100%有罪になり、火あぶりなどによって処刑されます。どういう存在が「魔女」と疑われるかというと……。

①ネコを飼っている

魔女は「使い魔」を連れているとされるので。

②薬草などの知識が、必要以上にある

もちろん医者に薬草の知識があるのは問題ないのですが、一般人がやたらに詳しい知識を持っていると、魔女が毒薬を作るための知識と思われたらしいです。

③シミやほくろがある

悪魔との契約の印とされました。悪魔との契約の印は痛みを感じないとされたため、魔女と疑われると、体中を針で刺されたとか(T_T)

④体重が軽い

悪魔によって生命力を吸い取られているから、とでも言えばいいんでしょうか。「魔女の秤」というのがあり、一定の重さかそれ以上なら無罪、それ以下なら有罪でした。

⑤泳げる(水に浮く)

魔女かどうかの見極めの方法の1つとして、水に放り込む、というのがありました。水は神の愛の象徴なので、神に愛されているなら沈むはず、浮くのは神に拒まれているから、あるいは悪魔に引き上げられたから、という論理です。

⑥女性なのに男装する

女性なのに男性の格好をするのはおかしい、ということ。

⑦歯が長い

「ヘンゼルとグレーテル」の魔女の描写に、「歯が長い」というのがあります。ヘンゼルを食べようとしていた魔女だから、牙のイメージでしょうか。

⑧自白しない

悪魔は自分の配下である魔女が自白しないよう、手を尽くすからです。


はい、突っ込みどころ満載ですね。

①→ペスト対策の意味もあり、ネズミを捕るネコを飼っている人は、そこそこいたはずです。でも特定の人がネコを飼っていると、そのことが魔女である証とされてしまったわけです。ちなみにペストについては、以下のnoteの記事をご覧ください。

②→どのレベルになると、「詳しすぎ」ということになるのでしょう。仕事を奪われる医師のやっかみでしょうか。

③→シミやほくろが1つもない人間なんて、いません。魔女狩りをしている当事者自身、多分シミやほくろがあったはず。

④→「一定の重さ」って、恒久的な基準があったんですかね? 多分恣意的に、その都度決められたのでしょう。

⑤→「魔女」の大半は女性です。女性は脂肪が多いので、たいてい浮きます。そもそも人間って、水に落ちて一度は沈んでも、普通浮きますよね? 体脂肪率が異常に少ない人だったら、沈むかもしれませんが。第一、沈んだまま浮いてこないっていうことは、死んでしまったということだし。

⑥→百年戦争におけるフランス救国の英雄、「オルレアンの乙女」と呼ばれるジャンヌ=ダルクは、これを理由の1つとしてイングランド軍に魔女と判断され、火あぶりにされました。

彼女がイングランド軍に引き渡されたことにも、その宗教裁判の過程にも、かなりややこしい政治的思惑がからんでいます。まぁすごく単純に考えれば、あともう一歩でイングランド軍が勝つはずだったのに、ジャンヌのせいでフランス軍が盛り返し、結果的にはイングランドが負けたことが悔しかったのでは、と思いますが。

1920年、ジャンヌ=ダルクはカトリック教会により聖人とされました。

⑦→年を取ると歯茎が下がり、歯が長く見える、というだけです。

⑧→拷問に耐えかねて「自白」したら有罪だし、自白を拒むと拷問がずっと続き、結局死んでしまうわけです。「魔女の疑いをかけられたら、ほぼ100%有罪」というのは、そういう意味です。

上記の判定基準を当てはめたら、誰もかれもが「魔女」になってしまいます。もちろん私もね。


5.おわりに

21世紀の常識で当時の人を裁くことは、厳に慎まねばなりません。でもどう考えても、当時の魔女狩りはおかしいということは分かりますよね? 要するに社会的弱者や、他の人とちょっと違う存在を標的とするものだったわけです。宗教改革、そして「17世紀の危機」の混乱の中で、人々が不安に駆られ、感じていたストレスのはけ口が、「魔女」に向かってしまったのです。

心の余裕と寛容さを、失わないようにしたいものです。

なお「17世紀の危機」については、以下の記事をご覧ください。



記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。