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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2023年7月の記事一覧

【読書】有能な者は酷使される~『鉄砲大将仁義 三河雑兵心得(陸)』(井原忠政)~

茂兵衛はついに、百人を率いる鉄砲大将となりました。足軽だった頃を思うと、隔年の感があります。 ↑kindle版 まさに有能さが認められればこそ、今巻では茂兵衛は酷使されまくります。茂兵衛なら潰れる心配はないでしょうけど、現代人なら「有能な者は酷使する」を実践すると、潰れてしまいそうです。 武田家滅亡の直前、浅間山が噴火したそうです。「国衆や地侍たちは、領地の復興に気がいって」(p.90)しまい、武田家のことどころではなくなるわけで、勝頼はまさに天運が尽きた状態だったわけ

【読書】仁の人、茂兵衛~『砦番仁義 三河雑兵心得(伍)』(井原忠政)~

茂兵衛はちゃくちゃくと出世し、今巻の最後の方ではついに砦番になります。まぁ砦番になるのと引き換えに、また厄介者の教育を任されますが。 ↑kindle版 でも茂兵衛は単に厄介者を押し付けられているだけではなく、実際に上手に彼らを育てるんですね。だから「あいつに任せれば大丈夫」と、また押し付けられるのでしょうけれど。茂兵衛自身、育てることが決して嫌ではないようです。 また茂兵衛は、味方だけではなく敵方であっても、若者への慈悲心があります。今巻では、父親思いの健気な若武者を見

【読書】茂兵衛はもう一人の秀吉~『弓組寄騎仁義 三河雑兵心得(四)』(井原忠政)~

「三河雑兵心得」シリーズも4巻目となり、茂兵衛は騎乗の身分となりました。そして10年ぶりに故郷に 帰ることになる上、結婚もします。 ↑kindle版 1巻の時からうすうす思っていたのですが、茂兵衛はもう一人の秀吉のようなものですね。足軽身分から出世し、本来の身分なら望めないような相手と結婚し……。まぁ茂兵衛は、天下は取らないでしょうけど。 それにしても、大河で「どうする家康」をやっているタイミングで、このシリーズに出会えて良かったです。大河の方がちょっと先行しているので

【読書】矛盾はあっても、面白い~『横浜大戦争 明治編 』(蜂須賀敬明)~

*この記事は2020年1月のブログの記事を再構成したものです。 横浜の各区を司る土地神たちが活躍する、『横浜大戦争』の続編を読んでみました。 ↑kindle版 今回は保土ケ谷・中・西の3人の土地神が明治時代にタイムスリップし、現代に帰ろうとする過程で事件を解決する話。ちょびっとだけ、ロマンスもあり。文章力も物語の構成力もついたようで、前作より格段に面白いです。ただ相変わらず文法的な間違いは、前作より減ったものの、結構あります。私はハードカバーで読んだのですが、文庫化する

【読書】人は変わるもの~『足軽小頭仁義 三河雑兵心得(参)』(井原忠政)~

「三河雑兵心得」シリーズの第3巻です。茂兵衛は足軽小頭に出世しました。もう足軽ではなく、徒侍(かちざむらい)です。 ↑kindle版 「どうする家康」を観ているからこそ、茂兵衛が赴くのが激戦地ばかりだということが分かります。今巻では何といっても、三方ヶ原の戦いがあるし。続巻があるということは、茂兵衛は死なないのだろうとは思いますが、茂兵衛の周囲の人たちはどうだろうと考えると、やはりはらはらします。 1巻の最初では、どうしようもない暴れん坊だった茂兵衛が、人を育てる立場に

【読書】宇佐八幡宮が気になる~『遺跡発掘師は笑わない 災払鬼の爪』(桑原水菜)~

「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの第17弾です。今回の舞台は、別府及びその周辺です。 ↑kindle版 これを読んだだけで、別府に行きたくなりました。 ストーリー展開は、相変わらず水菜さんのクセで、今巻だけのゲストキャラがてんこ盛りに出てくる上、話自体もややこしいです。でも、「このキャラは、さすがにいらないのでは」と思っていた人が、実は重要人物であることが最後に分かり、唸りました。伏線も上手に張ってあり、「おお、そうつながるのか」と感心しました。 印象的だったところ。

【読書】ハマっ子心をくすぐる意欲作~『横浜大戦争』(蜂須賀敬明)~

*この記事は、2019年12月のブログの記事を再構成したものです。 小野不由美の『白銀の墟 玄の月』の一・二巻を有隣堂横浜駅西口ジョイナス店に買いにいった時、そのすぐそばに、『白銀の墟~』ほどではないものの、結構な分量で平積みになっていた本がありました。それがこの、『横横浜大戦争』です。 ↑kindle版 裏表紙によれば、こんな感じの話。 いや、ハマっ子心をくすぐるじゃないですか。というわけで、読んでみました。 正直ラノベ的で、よくこれを文春文庫で出したなぁという感

【読書】成瀬あかり史を見届けたい~『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)~

NHKのラジオで取り上げられていたのを聞き、読んでみたいと思った作品です。 ↑kindle版 短編6本からなるのですが、1本目の「ありがとう西武大津店」の「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という書き出しの成瀬の言葉から変で、かつ引き付けられました。 読み始めて分かったのが、これが一種のコロナ文学であること。なぜ成瀬が「この夏を西武に捧げる」、つまり閉店が決まった西武大津店からの生中継に毎日映ることを決意したかというと、理由の1つはコロナ禍で思うように作れなか

【読書】「進化」は性質が変わったことを表すだけ~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.458 2023.7.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第61弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「海をこえて小笠原へ。鳥とカタツムリ」です。 特集の中でも印象的だったのが、カタツムリについて語った千葉聡さんの記事。 なお小笠原でカタツムリが減った一因は、「農業害虫のアフリカマイマイ防除のために”自然にやさしい生物農薬”としてニューギニアからもち出され、コントロールが利かなくなって、世界に広がった」(p.15)

【読書】将軍も楽ではない~『骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと』(鈴木尚)~

この本を読んだきっかけは、大学の時の人類学のプリントを、プチ断捨離の一環で見たことです。 目を疑ったのは、江戸幕府13代将軍の家定の最初の正室だった、天親院任子の頭骨及び頭部復元図。他の人の復元図にはない、髷を結っているような盛り上がりがあったのです。どうしても気になってしまい、それでこの本をわざわざ書庫から出してもらってまで、読んでみたのです。 結論からいうと、彼女の頭部には髪の毛が残っており、白木の櫛を芯にした髷が結われていました。分かってしまうと、何てことのない結果