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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2022年3月の記事一覧

明治という時代~『御坊日々』(畠中恵)~

毎度おなじみ畠中恵の時代ミステリーです。主人公のもとに厄介ごとが持ち込まれ、それを解決するというスタイルもお馴染みですし、連作短編が本全体で1つのお話を形成するというのも、いつものパターン。 ↑kindle版 ただし今回は、主人公がお坊さんというのが初めてのパターンですね(相場師でもありますが)。周囲の大勢の人間に助けられるのはお馴染みですが、ワトソン的な弟子が付いているというのも、珍しいかも。 割とするする読める作品ですが、ちょっと嫌になったのは、厄介ごとを持ち込む人

【読書】自然が下す、ちょっとした罰~『狼森と笊森、盗森』(宮沢賢治)~

私は宮沢賢治作品のファンで、結構読んでいるはずなのですが、この作品は『東京新聞』の「イーハトーブのらくがき帳 声で読もう宮沢賢治」で紹介されているのを見て、初めて知りました(2022年2月9日、朝刊、14面)。 ↑kindle版 kindleユーザーではない方は、青空文庫版をどうぞ。 「おいのもりとざるもり、ぬすともり」という題名の響きからして、賢治的な不思議な感じで、面白くないわけはないという期待が持てます。期待に違わず、面白かったです。 要するに、自然に敬意を持た

【読書】完訳しなかったことが惜しい~『罪・苦痛・希望及び眞實の道についての考察』(フランツ・カフカ、中島敦訳)~

この作品はわざわざレビューを書くには短すぎるのですが、自分の備忘録代わりに書いておきます。 ↑kindle版 kindleユーザーではない方は、青空文庫版をどうぞ。 フランツ・カフカの警句集的なものなのですが、何せ引き付けられかけたタイミングで、「以下缺」になってしまうので、よく分かりません。 でも完訳していたら、結構面白く、評価される作品になったのかもと思わせる兆候は、冒頭から見られます。 これとかも、結構深いです。 何しろ、あまりにすぐに終わってしまうのが惜し

【読書】『山月記』の李徴を思わせる主人公~『かめれおん日記』(中島敦)

また中島敦作品を読んでみました。 ↑kindle版 kindleユーザーではない方は、青空文庫のサイトでどうぞ。 生徒から預かったカメレオンを数日の間飼った、というだけの話ですが、その間の主人公の身辺で起きたこと、考えたことが盛り込まれており、なかなか面白かったです。 主人公の身辺をある意味で彩るのが、同僚の吉田です。 言うまでもなく主人公は、本心から彼を「模範とすべき人物」と思っているわけではありません。何というか、身近にいたら結構うっとうしいタイプの人なので。で

ちょっと先の日本の姿~『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』(ブレイディみかこ)~

ベストセラーになった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の続編です。こういうのって、続編は最初より落ちがちですが、これに関しては2の方が面白く、かつ読みやすかったです。 ↑kindle版 無料お試し版もあります。 冒頭にオスカー・ワイルドの「人間の本質についてわたしが知っているたった一つのことは、それは変わるということである」という言葉が引用されているのですが、読み進めるうちに、この言葉の意味が染みてきます。 まず印象的だったのが、以下の一節。 「不要なも

【読書】現代の万能薬~『イベルメクチン 新型コロナ治療の救世主になり得るのか』(大村智編著)~

この本によると、イベルメクチン(抗生物質としてはエバーメクチン)という薬、すごすぎです。飲んでも良く、注射もできます。最初は動物用の寄生虫薬としてスタートしましたが、その場合、「体の内と外の寄生虫両方に効果がある」そうです。 そのうち、人間の寄生虫由来の病気にも効果があることが分かり、すでに30年以上使われ、「仮に適応量の8倍を服用しても問題のない」、つまり安全であることが分かっているので、「医者や看護師もい」らないです。 更に近年では、高齢者施設などでの集団発生が問題に

【読書】海洋放出で良いのか?~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.426 2022.3.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第29弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「海洋放出考 ふくしまの11年」です。 「海洋放出ありき」で汚染水の処理を行おうとして現状はもちろん問題ですが、そもそも問題なのは、放射性廃棄物を「海に捨てる」こと自体、すでに行われていたこと。 ついでに言えば旧ソ連も、「日本海など極東海域に放射性廃棄物の投棄をしていた」そうです。 このことだけでも、汚染水の海洋放

【読書】入門書としては悪くないかも~『図解 アクティブラーニングがよくわかる本』(小林昭文監修)~

*この記事は、2019年11月のブログの記事を再構成したものです。 近年話題のアクティブラーニングですが、正直胡散臭さしか感じていませんでした。「主体的・協働的な学び」、というやつですね。受け身ではなく、主体的に学べることを目指す、という趣旨はもちろん素晴らしいですが、核になる知識をきちんと得てからでないと、それは無理ではないかと個人的には思います。 ↑kindle版 そして協働! 『広辞苑第三版』によれば、「協力して働くこと」です。 もちろん「働く」のは、「ワークブ

【読書】検討を怠ったつけ~『社会のなかの軍隊/軍隊という社会 シリーズ 戦争と社会2』(蘭信三ほか編)~

硬い本ではありますが、各章が多くても注を含め25ページ程度と短めなのもあり、意外と読みやすいです。 また、戦争や軍隊と聞くと、一見現在の私たちの日常とは直結しないように思ってしまいますが、実はそうではないことを痛感させられる本でもあります。 以下、各章で印象に残った部分を取り上げていきます。 『シリーズ 戦争と社会』刊行にあたって 現在のコロナ禍と戦時中の空襲を重ね合わせた、冒頭部分から、引きつけられました。 なぜこんなことになってしまったのか、それは以下の検討がなさ

【読書】評価できる部分もあり、できない部分もあり~『追憶の烏』(阿部智里)~

八咫烏シリーズの最新刊です。 ↑kindle版 第2部のスタートにあたる前作『楽園の烏』では、いきなり第1部の終わりから約20年後の話になっており、いささか戸惑いました。今巻はまた時間を遡り、第1部の終わりから8年後の話が語られます。つまり第1部の終わりと『楽園の烏』をつなぐ話です。 時間軸を行ったり来たりして語ることの効果も、もちろんあると思います。例えば『楽園の烏』で私が気になった、金烏のことが一言も語られなかった理由が、今巻で判明しました。その理由を知らずに『楽園

【読書】「山月記」のファンは、読まない方が良いかも~『虎と月』(柳広司)~

*この記事は、2020年5月のブログの記事を再構成したものです。 少し前、たまたま違う本を探していた時に、「山月記」にヒントを得た作品があることを知り、読んでみました。それがこの『虎と月』です。 「山月記」で虎になった李徴の息子が、父がなぜ虎になったかを探るため、旅に出る話なのですが、うーん、「山月記」のファンは、もしかしたら読まない方が良いかもしれません(^-^; 作者の柳広司自身が、本当に「山月記」が好きで書いたのであろうことは、よく伝わります。でも、いろいろひっか

【読書】成長しない主人公~『医学のたまご』(海堂尊)~

*この記事は、2019年7月のブログの記事を再構成したものです。 海堂尊の本を読むのは、初めてです。中高生向けに書かれた本書を、ヨシタケシンスケのイラストの可愛さに惹かれて手に取ったわけですが……。 ↑kindle版 読んでいて、正直疲れました。途中からは、早くこの世界から解放されたくて、一気に読んだくらい。 主人公は中学生でありながら、その潜在能力を買われて医学部の研究室に属することになった少年ですが、あまりに主人公が未熟で疲れるんですよ。中学1年生、途中からは2年