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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2021年6月の記事一覧

【読書】表紙の雰囲気とテーマのギャップ~『烏に単は似合わない 八咫烏シリーズ』(阿部智里)~

*この記事は2020年4月のブログの記事を再構成したものです。 平安時代風だけど、人が八咫烏に変身できるという異世界を舞台にしたファンタジーです。だいぶ前に書評を読んで、読みたいと思っていたのですが、なかなかタイミングがつかめず、この度ようやく取り掛かったのですが……。 ↑kindle版 正直、読了するのがきつかったです。もはや指摘する気にもなれないほどの、矛盾の山、そして視点のゆらぎ。登場人物たちの視点と「神の視点」が変な風に混ざっているので、読みにくかったです。何よ

手紙ですべてを語る、しをんさんの筆力に感服~『ののはな通信』(三浦しをん)~

*この記事は、2019年7月のブログの記事を再構成したものです。 「のの」と「はな」の互いへの手紙だけで構成されたこの作品は、男性にとっては理解できない、ひょっとしたら完読すらできないものかもしれません。何というか、女の子同士の、何とも言えない執着が描かれているので。 ↑kindle版 第1部・第2部はメールがなかった時代の手紙、いわゆる郵政省メール(この言い方、短期間で消えた気がしますが)と、授業中の手紙で構成されています。私は主人公二人よりは年下ですが、「分かる分か

「まなざし」について考える~『性 生命の教養学11』(慶応義塾大学教養研究センター、高桑和巳編)~

*この記事は2019年1月のブログの記事を再構成したものです。 これまでもたびたびこのブログで取り上げている、「生命の教養学」シリーズの11巻です。慶応義塾大学で、人文科学・社会科学・自然科学の研究者たちがオムニバス講義のスタイルで語った授業の内容をまとめたものです。 今回まず印象に残ったのは、斎藤環先生の「「ジェンダー」の精神分析」の中で紹介されている、「ジェンダー・センシティヴ」という言葉。「ジェンダーが重要になるときには考慮に入れるし、そうでないときは無視する」とい

アメリカにおける「保守主義」とは~『新生 生命の教養学X』(慶応義塾大学教養研究センター、高桑和巳編)~

*この記事は2019年1月のブログの記事を再構成したものです。 このシリーズは、各分野の研究者のオムニバス講義という形をとっていますが、今回も脳科学などの自然科学系から、ペトラルカとボッカッチョについてなどの人文科学系、マーケティングなどの社会科学系と、「新生」をキーワードに幅広い分野を扱っています。 これの前の巻にあたる『成長 生命の教養学Ⅸ』の感想で、「9巻まで読んだ中では、多分今回が一番面白く、結果的に読了までも早かった」と書きました。でも今回は更に面白く、読了まで

分人主義の勧め~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.409 2021.6.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第12弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、斎藤環さんをゲスト編集長に迎えての「ひきこもりアップデート」です。 まず衝撃的だったのは、ひきこもりになるのは基本的に若者で、うまくいかないと、そのまま中年・老年になっていくと思っていたのですが、そうではないということ。引きこもりになった人の7割以上が、30歳以上で初めてひきこもりになっているのです。40代で初めてひき

やる気が出る目標とは?~『成長 生命の教養学Ⅸ』(慶応義塾大学教養研究センター、高桑和巳編)~

*この記事は2018年12月のブログの記事を再構成したものです。 この「生命の教養学」シリーズはすべて読んでいるのですが、9巻まで読んだ中では、多分今回が一番面白く、結果的に読了までも早かったです。教育・経済といった文系分野から、発生学や進化生物学といった理系分野まで、様々な分野の専門家が「成長」をキーワードにオムニバス形式で語った講義をまとめたものです。 どれもそれぞれ興味深かったのですが、最終的に一番心に残ったのは、奥野景介先生の「オリンピックに向けた心身の成長」の中

頭が活性化される~『生命の教養学VIII [対話]共生』(慶応義塾大学教養研究センター、鈴木晃仁編)~

*この記事は2018年11月のブログの記事を再構成したものです。 今日ご紹介する本は、慶応義塾大学で毎年行われている、理系・文系双方の先生が共通テーマで行う講義の内容を収録したものです。 とはいえ理系の先生は文系の学生にも分かるように、文系の先生は理系の学生にも分かるように、なるべく噛みくだいて話しているので、思うほどは難しくありません。といっても、このシリーズは今までずっと読んできたものの、理系の方の話は、私には表面的にしか理解できませんけど(^-^; 今回は理系分野

【読書】楽しく読みすすめたものの……~『猫君』(畠中恵)~

*この記事は2020年10月のブログの記事を再構成したものです。 畠中さん得意の、江戸時代の妖ものです。とはいえ「しゃばけ」シリーズをはじめ、他の江戸時代の妖ものとは完全別物です。同じキーワードから、別のシリーズをいくつも作れるのはすごい! ↑kindle版 今回の主人公は猫又で、なかなか楽しく読みすすめました。日本史上有名なあの人たちが実は猫又、という設定は、ちょっと面白かったです。隠れテーマとして、「訊きたいことは正面からちゃんと訊こう」というのがあった気がします。

作品の出来が、安定してきた~『てんげんつう しゃばけシリーズ18』(畠中恵)~

*この記事は2020年9月のブログの記事を再構成したものです。 「しゃばけ」シリーズの18冊目、1年遅れで読みました。 ↑kindle版(*2021年6月24日に発売されます) 私が散々、作品の出来にムラがあると書き続けてきた畠中恵ですが、小説家デビューから約20年にして、去年出版のものぐらいから、ようやく作品の出来が安定してきた気がします。 今回の『てんげんつう』だけでなく、以前レビューした『わが殿』(上下巻)も、よく出来ているので。 今回はどの短編も登場人物が多

21世紀になっても変わらない、ではどうしようもない~『創竜伝5<蜃気楼都市>』(田中芳樹)~

今回の『創竜伝』は番外編です。本編の時間軸を無視して四兄弟が、日本海沿いの架空の都市「海東市」に、亡き祖父の友人を助けに行く話です。 ↑kindle版 四兄弟は海東市にまつわるどす黒い話に巻き込まれていくわけですが、例のごとく過剰防衛ともいえる大活躍で、悪を粉砕していきます。何せ年長組も末っ子の余から、「どうせやることは終兄さんと同じなんだよ」(この余の台詞には笑いました)と称され、一番常識人であるはずの長男の始も終から「さすがに続兄貴の兄だぜ」と感心される状態ですから。

植物の持つ力~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.408 2021.6.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第11弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「植物力 毒・薬と香り」です。 「鼻から入った成分は脳神経にダイレクトに効く」そうで、「将来的には、脳神経系疾患は鼻から治療することがメインになってくるのではないでしょうか」ということです。そういう意味で植物が持つ香りが、改めて見直されているようです。 面白かったのは、以下の2点。 サケが白身魚とは、知りませんでし

大河ドラマにしてほしい~『わが殿 下』(畠中恵)~

*これは2020年8月のブログの記事を再構成したものです。 『わが殿』下巻、読了しました。 ↑kindle版 上巻の終わりではまだまだ残っていた借金ですが、下巻の割と早い段階でほぼ返済の目途がつき、びっくり。「わしの打ち出の小槌」と殿に呼ばれた七郎右衛門の手腕、半端ないです。 ただ、もちろんそれで終わりではありません。時は幕末、移りゆく世に合わせ、大野藩も西洋のものを取り入れたりして、出費がかさんでいきます。そしてこんなに奮闘しているのに、それに伴う七郎右衛門の出世を

【読書】自分なくしをゆるく提案してくれる~『さよなら私』(みうらじゅん)~

「見仏記」シリーズからスタートし、結構集中的にみうらじゅん作品を読んできましたが、とりあえず一区切りと思い読んだのが、『さよなら私』です。 ↑kindle版 集中的に読んできただけに、「自分なくし」をはじめ、『マイ仏教』など、他の作品でも書かれていたことが出てきます。 じゃあ読まなくても良いかというと、もちろんそういうわけでもなく、『マイ仏教』より更にゆるく、人生のコツが書かれているので、悪くありません。 以下、印象に残った部分。 みうらじゅんお得意の、同音異字で言

果たして借金は完済できるのか~『わが殿 上』(畠中恵)~

*この記事は2020年8月のブログの記事を、再構成したものです。 私が知る限り初の、畠中恵の上下巻からなる長編です。実在の人物をモチーフにするのも、初めてだそうです。 ↑kindle版 越前国にある四万石の大野藩が抱えた九万両の借金の返済に向け、八十石の家柄の七郎右衛門が奔走する話です。主君から打ち出の小槌呼ばわりされる七郎右衛門が借金返済に向けて奮闘しても、従来通りのやり方を捨てられない保守勢力から足を引っ張られたり、文字通り山から突き落とされたりします。 何とか道