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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2021年2月の記事一覧

【読書】本来ゴールデンであったもの~『見仏記5 ゴールデンガイド篇』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

『見仏記』も第5弾です。「ゴールデンガイド」ということで、メジャーどころに絞っての紹介というコンセプトで始まったはずが、章が進むごとに、どんどんディープさが増していきます。 ↑kindle版 でもそれはただの脱線ではなく、「鶴林寺・浄土寺」の章にあるとおり、「本来ゴールデンであったものの掘り起こし」なのだと思います。交通の便が悪いといった人間側の都合で、良い仏像が見られることなく埋もれていくのは、あまりに惜しいです。 今回の見出し画像は、浜松の龍雲寺の六地蔵です。浜松も

【読書】深まっていく、仏友2人の思考~『見仏記4 親孝行篇』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

仏友2人の旅の記録も第4弾、今巻には副題通り、それぞれの両親を連れての旅の記録も含まれます。 ↑kindle版 役行者をエンノ、あるいはエンノ先生呼ばわりしたり、仏像がいる裏の壁を触って楽しんだり(みうらじゅん)、相変わらず好き勝手に仏像を楽しむ2人ですが、次第にその思考は深いところに到達します。 みうらじゅんが石山寺の大日如来に語りかけた以下の言葉が、まず心にしみました。 また、いとうせいこうの若狭に関する考察には、はっとさせられました。 みうらじゅんもまた、小浜

【読書】笑わされたり泣かされたり~『見仏記3 海外篇』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

いとうせいこう・みうらじゅんの「仏友」2人が、勝手な視点で仏像を見る旅行記第3弾です。ついに海外進出を果たし、韓国、タイ、中国、インドに行きました。 ↑kindle版 今巻も、大変楽しく読み進めました。長距離移動や飛行機が苦手なみうらじゅん、閉所恐怖症のいとうせいこうが、それらに加えて延々石段を登ったり、酷暑にやられたりと、様々な受難に見舞われます。それでも旅をするのは、それこそ「そこに仏像があるから」。 ゆるい感想だけではなく、相変わらず鋭い視点も見られます。韓国篇で

【読書】次々に読みたくなる~『見仏記2 仏友篇』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

「見仏記」の2巻目です。何とも言えない魅力を感じ、次々に読みたくなります。最近の私の一番の楽しみは、移動中や寝る前などにこのシリーズを読むことです。 ↑文庫版 この「何だか知らないけど良くて、次々に読み進めたくなる」という感覚は、武田百合子の『富士日記』以来かもしれません。武田百合子もいとうせいこうも、みうらじゅんも、この2つのシリーズを同列に並べられたら、戸惑うこと請け合いですが(^-^; そして今巻も、二人は絶好調です。四国のお遍路道を指して、以下のように表します。

1つのきっかけにはなる~『モヤモヤをチャンスに変える方法 ガマンをやめて自分らしく生きたいあなたへ』(Kuniko)~

本書はとあるブログで紹介されており、題名に惹かれて読んでみました。 この『モヤモヤをチャンスに変える方法』で、まず気になったのは、校正の甘さです。誤字脱字、文法的なミスが少なからずあります。加えて、変な場所で改行してあったり、なぜか行間がつまっているところがあったりと、レイアウトの乱れも結構ありました。 そして内容はというと、いらないものは手放すとか、掃除をするとか、食べる物に気をつけるとか、いわゆる自己啓発的な本を読んでいる人にはお馴染みのものが多いです。例えば私がご紹

【読書】これからの展開が気になる~『楽園の烏』(阿部智里)~

「八咫烏シリーズ」の第2部の始まりです。 ↑kindle版 どうやら第1部の終わりから約20年後の世界のようですが、第1部の終わりの『弥栄の烏』で私が危惧していた通り、個人的には話の方向性を誤ってしまい、かつ修正の方向も暗中模索している気がします。 雪哉改め雪斎の冷血かつ極悪ぶりはパワーアップしているし、雪斎によって「楽園」にされた山内は不気味なことになっているし、今回初めて登場した「はじめ」は好きになれないキャラクターだし、嫌なことを挙げだせばキリがありません。 と

【読書】面白いだけではなく、深い~『見仏記』(いとうせいこう、みうらじゅん)~

久しぶりに「これは面白い!」という本に出会いました。 ↑文庫版 『見仏記』は、いとうせいこうとみうらじゅんが二人であちこちのお寺の仏像を見ては、好き勝手な感想を述べるものなのですが、いとうせいこうの文章とみうらじゅんの絵が絶妙なハーモニーを醸し出しており、何とも魅力があります。いとうせいこうの文章だけでもみうらじゅんの絵だけでもダメで、二人の才能が合わさってこその面白さだと思います。 あくまでも見仏(けんぶつ)なので原則的に手は合わせず、それどころか寝っ転がって仏像を眺

原点回帰しつつの進化~『一人称単数』(村上春樹)~

この短編集は、初期の頃からのファンにとっては「懐かしい」感じなのではないでしょうか。春樹さん自身がモデルと思われる(でももちろんフィクションの)、「僕」の物語が多いので。 ↑kindle版 原点回帰といえば原点回帰だけど、でももちろん進化しています。いろいろなスタイルを試した末に、元のスタイルに戻ったというか。 心に残ったのは、まず「クリーム」の中の老人の言葉。 「この世の中、なにかしら価値のあることで、手に入れるのがむずかしうないことなんかひとつもあるかい。(中略)