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雪蛍

さすが正月明けです。わたしの県の感染者も激増しています。でも、予想はしていたし、想定内です。休み明けは増えるもんです。

ただ、この増え方が急激な右肩上がりだと、療養ホテルも病院もパンクをしちゃいます。ここからが、各自治体の腕の見せ所ですし、トリアージの技量の差が見えてきそうです。

ところで、わたしは年のせいで見えない皮下脂肪が増えているのか、単に新陳代謝が良いのか、寒がりではありません。

でも、職場の相方は寒いといって暖房の温度設定をあげていく。わたしは一枚脱ぐ。まだ寒いようで、またあげる。また脱ぐ。

とうとう、夏仕様の格好になってしまった。そして、相方はジャケットを着た。

人によって快適は違うけれど、こうも違うと一緒に生活はできないなと思う。

でも、わたしは地球温暖化には弱いだろし、彼女は耐えられそうだ。

なんてことを考えながら、時間をやり過ごしています。

今日もよろしくお願いいたします。


年の夜に看取りにつくも縁かな

(としのよに みとりにつくも えにしかな)

季語は「年の夜」、12月31日の大晦日です。お一人様のわたしは、年末年始やゴールデンウィーク、お盆の頃は仕事でした。

どうせ休みの回数は変わらないし、手当てもつくので「ラッキー」と思うようにしていました。

そして、ラッキーと思い込んでいるわたしが夜勤と知り、「ラッキー!」と言ってくれる患者さんやその家族には、心が救われるようでした。

緩和ケア病棟には、看取りのために入院している人がほとんどです。でも、痛みのコントロールをして自宅に戻る人もいます。いづれ病棟に戻ってくるかもしれませんが、それを決めるのは本人でした。

そろそろ今夜あたりかもしれません、と医師から説明を受けることがあります。長いこと癌の患者さんをみていると、看護師でもなんとなく分かるようになります。

潮の満ち引きではありませんが、でも、なんとなく分かるもんです。でも第三者の死は、俯瞰して観れるものなのでしょうか、両親の死は分かりませんでした。

わたしが夜勤をした、年の夜もそうでした。わたしの担当ではありませんでしたが、よく病室で話をしていた男性の看取りが近づいていました。

どうやら患者さんもご家族も、誰が夜勤かをチェックしているようでした。

「あの看護師はガイやき、あかん」

そんなことを話しているのを耳にしたことがあります。ガイとは、乱暴、荒くたいということです。

どうやらわたしは「あたり」だったようで、「お父さん、死ぬんやったら今夜やきね!」と急かされていました。

おいおいと思いましたが、「急かされるね」と声をかけると、「妻にはかなわん。まっことよ」と笑っていました。

その夜勤の夜は穏やかで、病室も落ち着いていました。わたしも時々、病室を訪ねては、しょうもない話をしたり、ご夫婦の馴初めを聞いたりしていました。

無事と言っては何ですが、お父さんは家族に見守られて亡くなりました。

眉毛の薄いのがコンプレックスだった彼は、妻に死化粧するときは、眉を隆々とぶっとく描いて欲しいと遺言していたそうです。

失礼な話ですが、もう、奥さんと大笑いしながら、見事な眉毛を描きあげました。

あの世で満足してくれたのかしら、それとも「やりすぎよ!」と失笑しているかしら。

看取りのときは、これも何かのご縁と、有り難く担当させてもらったもんです。

なかなかこの句を載せる機会がなく、正月も終わりになりました。


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雪蛍みれば恋しや猫を抱く

(ゆきほたる みればこいしや ねこをだく)

季語は「雪蛍」です。なんとも儚く、美しい季語です。冬の風のない日に、雪が舞うかのように、ふわふわと群れ飛びます。

「雪蛍」はつぎの「綿虫」の関連季語です。綿虫が飛ぶと降雪が近いといいます。

雪蛍のように淡く切ない存在を目にすると、ガーと餅を食いたくもなるし、猫をギュッと抱き締めて、生きているという実感を確かめたくもなります。

腹を満たすか、心を満たすか。どちらも生を実感できますし、腹も心も意外と同じ場所にあるのかもしれません。


綿虫や薄かりし縁の母よ
綿虫や縁薄かりし母のごと

(わたむしや うすかりしえにしの ははよ)

ふわりふわり飛ぶ綿虫。本物の雪なら、手にしても消えてしまいます。でも、あぶら虫である綿虫は、手に取ると握りつぶしてしまいそうです。

実体があるのに触れたくない、そんな存在の綿虫と母がだぶります。

上の句は17音ではありますが、ちゃんとした五七五の句ではありません。初心者は基本の五七五で詠むのがよいと云われますが、縁の薄っすい母の句なので、あえて不安定な句にしてみました。

なんて、言い訳です。下の句にすると五七五ですが、綺麗に落ち着きすぎている、そんな気がします。是非はいかに。

それでは、今日も寒い1日となりそうです。ご自愛ください。