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好きなことはとことんとん


「準備はいい?いけー!」

あたしの号令で若い看護師がステーションに走っていきます。ストップウォッチを押して耳を澄ませます。

「事故です!至急、ハートコールをお願いします!」

館内放送でハートコールが流れます。

暫くするとステーションにいた看護師が走ってきます。階段のあちこちにムラージュしたスタッフがひっくり返り、呻き声をあげています。

「えっ?訓練?」

駆けつけた看護師の表情が、安堵から狼狽に変わります。

「本番のつもりで真剣にやってね~。記録もしてるから手抜きしないでね~」

記録係がカメラを構えていますし、ビデオも撮っています。次々と駆けつけてくる医師も訓練と分かると帰ろうとしますが、名指しで注意をされるので開き直って指示を出し始めます。

前回の訓練で「先生は壁の花でしたね~」と酷評された医師も、今回はみごとな手つきで胸骨圧迫をしています。

☆☆☆

今回の訓練の設定は、看護部長と仲間たちがお昼ごはんを食べに階段を使って食堂へ行く途中で、看護部長が足を滑らし転落。仲間のスタッフも巻き沿いをくって階段から落ち、多数の傷病者と一人が心肺停止です。

怪我人は5名でしたが、頭から流血しているスタッフを見てパニックになる人も用意していました。思いきり叫んでもらい、そこから過換気の演技です。

そういえば、あたしも安芸駅でパニック発作起こした役をしたことがあり、駅の利用者が見ている前で叫んだなあ~(しみじみ回想)。

実は演技賞も用意しているので、みんな熱がこもっています。

仕事中の訓練なので30分の時間制限があります。講評時間を除くと20分足らず。それでも、ほぼ全員が救命されました。

「はい、お疲れさまでした~」

院長と理事長から講評をいただき、詳しくは委員会でビデオを見ながら振り返りをすると告げて解散です。

☆☆☆

仕事よりも抜き打ちの訓練が好きで、もはや趣味でした。ムラージュという傷病者などの血みどろの擦過傷や打撲痕を百均の化粧品で再現し、演技指導もやりました。

最初は嫌がっていた若手のスタッフも、慣れると面白がってシナリオを考えるようになりました。面白がるって最強です。

えっ?仕事中に訓練なんて、患者さんはどうすんねん!と叱られそうですが、各職場から何人のスタッフを現場に出すかの判断も訓練でしたし、必要な人員のみ残し、仕事に戻る判断も訓練でした。

あたしたち救急災害委員会のスタッフ、仕事放ったらかしで、訓練のあとは看護部長室でお茶しながら反省会という名の雑談でした。

おいおい、仕事しろよ~


草むらに大の字おやつは鰯雲いわしぐも
肘張ひぢはりて秋の句詠めば季重なり


《おまけ》

家の近所の川にたくさんの水鳥が
やって来ました。長閑なり(’-’*)♪