外国人高校生に広がる格差
せっかくたくさんの方に以前の記事を読んでいただけたので、ちょっと続きの話を書きたいと思います。高校に入ってから中退する生徒がいることについて、制度の外側に少し目を向けたいと思います。
困難の連鎖
外国人高校生は、日本語習得の途上にあること、経済的な困難、家族関係、将来への不安などさまざま困難に直面しています。しかし、当然のことながら、全ての外国人高校生が困難に直面しているわけではありません。
むしろ、一人の生徒がいくつもの困難を抱え込んでいる経口があります。私の実体験をもとにあるケースをご紹介します。
ケース 学校に来なくなったAさん
●Aさんの視点
Aさん(16歳)は外国人の母、日本人の義父、その間に生まれた10歳年下の弟と一緒に住んでいました。
Aさんは、仕事で家にいない親に代わって、弟の世話や、家事を担ってきました。13歳で日本の中学校に入ったとき、放課後に日本語の補習を受けるため、担任の先生からボランティア教室へ行くように勧められました。しかし、Aさんは家族を優先し、日本語を学ぶ機会を逃してしまいました。
また、普段は、母が仕事に行くときに弟を保育園へ連れて行くのですが、早く出勤しないといけない日は、Aさんが連れていきます。でも、保育園と中学校は反対側にあるので、1時間目にはどうしても間に合うことができません。
日本語や中学校の勉強は満足にはできませんでしたが、幸い外国人特別枠のある高校に進学することができました。しかし、学校は片道1時間もかかります。さらに、父親は体調を崩し、休職することになってしまいました。親からは、お金が足りないので、携帯代や定期代などは自分で払ってほしいと言われ、アルバイトも始めることになりました。
ある日の昼休み、母から「今すぐ家に帰ってきて。市役所に行かないといけないの。」とLINEが来ました。事情を説明して、学校を早退しました。しかし、日本語で上手く事情が説明できず、次の週に通訳を呼んで対応してもらえることになりました。翌週、書類を提出するため、一人で市役所へ行きました。受付で過ぎていく時計を眺めながら、明日のテストのノートを片手に今日受けるはずだった定期考査のことを考えていました。
●親の視点
Aさんの義父は学校を度々遅刻欠席していることを心配していました。でもAさんの母は、私の国では普通のこと、家族のためだから仕方ないでしょ?と言います。そんな母は、Aさんを家族思いで優しい頑張り屋さんだと誇りに思っています。そして、色々な面で、負担をかけていることを申し訳なく思いつつ、感謝しています。
●高校の担任の先生の視点
Aさんは度々遅刻欠席があり、重要な定期考査も欠席するなど、学習意欲があまりないと考えています。あるいは、日本語の理解が十分でないため、指示や説明が理解できていないと思っています。できれば、放課後などに日本語学習をしてほしいのですが、何も言わず帰宅してしまうので半ば諦めています。他の生徒からは、アルバイトは休まず行っていると知り、彼女にとっては勉強よりお金が大事なのかな…?と思い始めています。また、親に対しても、欠席や遅刻を容認しているため、責任感が足りず、無関心だと感じています。
ケースから分かること
日本語教師の立場から見て、生徒が日本語の学びに向かえない時、その理由は生徒の背景に隠されていることが少なくありません。
今回のケースのように、いくら日本語教育の制度や機会を整えても、そこへのアクセスを阻む限り、こちらから学ぶ機会を提供することは困難です。
だからと言って、家族としての役割を放棄するように強制することも望ましいことではありません。ヤングケアラーの研究でも、本人が意義を感じている側面があり、すべてを誰かが代わったりすることは必ずしも好ましいことではないと指摘されています。
また、Aさんに対する捉え方も非常に異なるという点も重要です。やる気のない生徒、家族思いの優しい子。一見相反する描写が示すように、善悪だけでは判断できない問題があります。このような背景が、周囲の介入をより難しくしているという側面があります。
経験上、半数以上の生徒は、概ね順調に日本語を習得したり、資格をしたりしながら、家族の理解や協力を受けて、次の進路を決めています。しかしながら、いくつもの困難を背負った生徒は一定数おり、彼らを上手く支えることはいまだに困難です。目先の課題と外国人高校生とその家族をも視野に入れた、あるいは、自立して生きていけるような支援が今後重要になってくると思います。