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【新しい産業組織論(小田切宏之)】 第1章練習問題

1.練習問題を取組むに至った経緯

 2020年のコロナ禍での自粛生活中に、経済学の1分野である「産業組織論」を学びたいと思いました。その経緯は、別の記事にまとめているのでご興味があれば是非、読んでみてください。

 学ぶにあたり、まず理論を理解するため、本棚の装飾と化していた小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)を読み始めました(以下、小田切(2001))。GW中に一読はしたものの流し読みだったので、理解を深めるため、再読しつつ各章の練習問題を解き、その内容をnoteの記事にしようという思いました。

2.小田切(2001)第1章の概要

 「第1章 産業組織論の基本概念」では、タイトル通り、産業組織論で大切な基本的な概念を紹介しています。特に「構造・行動・成果(SCP)分析」について丁寧な説明をしています。また、第2章以降のモデルで頻繁に用いる「需要関数(逆需要関数)」と「費用関数」について、線形(=1次関数)の場合を例に解説しています。更に産業の構造を測る「集中度」と呼ばれる指標の内、代表的な「マーケットシェア」「K社集中度」「ハーフィンダール指数」を定義して、その特徴を紹介しています。

 練習問題は4つあり、その傾向は2つに分けられます。いずれも基本概念に関する理解を深めるために出題されているのだと思います。
 <練習問題の傾向>
  ①第1章で紹介されている概念の違いを示すもの
    ⇒練習問題1、3、4
  ②現実のデータを用いて実際に概念に触れてみるもの
    ⇒練習問題2

3.第1章 練習問題の解答

 解答の都合上、各練習問題をいくつかの小問に分けているので、原文とは表現が異なります。

【練習問題1】

(1)「市場構造(S)」とは何か

 市場を規定する要因。小田切(2001)では3つほど紹介されている。
  ①市場に参加する企業や消費者の数と分布
  ②製品差別化の程度
  ③参入障壁の高さ

 企業の数に注目した場合、市場構造は3つに分けられる。
  ①競争市場:市場に企業数が多数存在する
  ②独占市場:市場に企業が1社だけ存在する
  ③寡占市場:2社以上で競争市場より少ない企業が存在する

 製品の差別化は、消費者の認識次第で決まる。消費者が異なる製品と認識していれば、差別化されていると考えられる。具体的な差別化の例も3つほど挙げられる。
  ①製品自体の特徴(品質・デザイン・味)
  ②付帯サービス(配送・組立・設置)
  ③店舗の立地    

 参入障壁の高さとは既存企業と比べて新規企業にとって市場参入がどの程度不利かを表すもので、以下の3つの状態が考えられる。
  ①参入自由:新規企業に不利な点が無い
  ②参入不能:新規企業が全く参入できない
  ③参入自由と参入不能の間の状態

(2)「市場行動(C)」とは何か

 市場参加者(企業や消費者)の行動。但し、産業組織論では主に売り手である企業の行動に注目する。「①生産量や価格の設定(伝統的なミクロ経済学での分析対象)」や「②設備投資・研究開発・広告宣伝・製品の差別化」等に加えて「③複数の企業で行う合併・提携・垂直的統合や多角化」も含む。

(3)「市場成果(P)」とは何か

 「市場行動(C)」の結果、市場参加者が達成する貢献度。企業の場合、貢献度を測る指標は企業の行動原理によって異なる。株主が企業を所有しているという考えでは、利潤や株価が適切になる。一方、経営者資本主義の立場からは成長率や従業員生涯賃金が適切になる。
 但し、産業組織論では、「経済的厚生」に注目する。まず、パレート最適性やラムゼイ最適性に基づく「資源配分の効率性」をみる。次に、経済成長や技術進歩で測る「進歩性」がある。「公平性」も大切な観点だが、経済学的な取扱いが難しいため、小田切(2001)では取り扱わない。

(4)SCPの間にはどのような関係があるか

 「市場行動(S)」と「市場行動(C)」は相互に影響を与える関係と言える。「市場構造(S)」が「市場行動(C)」に影響を与える例としては、企業間で相手の行動次第で、自身の行動を決める戦略的行動が必要な場合が挙げられる。逆に「市場行動(C)」が「市場構造(S)」に影響を与える例としては、既存企業が新規企業の参入阻止を目的とした経営戦略をとった場合、市場の企業数が変わってくる。
 「市場構造(S)」と「市場行動(C)」の相互関係に従って「市場成果(P)」も変わる関係にある。

【練習問題2】

(1)興味のある品目を選び、3社集中度を計算しろ
(2)興味のある品目を選び、ハーフィンダール指数を計算しろ
(3)計算した集中度と公正取引委員会や工業統計表のデータを比較しろ
 ※上記2-(1)~(3)は、「日経シェア調査」(日経産業新聞編)又は「日本マーケットシェア事典」(矢野経済研究所編)を参考に取組めとある。但し、コロナ禍の自粛要請で、図書館が閉まっており、上記文献にアクセス出来ないため、一旦保留する。

【練習問題3】

(1)企業数は同じ4社だが、ハーフィンダール指数(H)が異なる2つの産業がある。A産業H:0.3、B産業H:0.8であったが、これは両産業のマーケットシェアの分布について何を意味するか。

 小田切(2001)によると「既存企業のマーケットシェアの分散(σ^2)」と「ハーフィンダール指数(H)」及び「企業数(n)」の関係は以下の式のようになる。

σ^2 = H/n - 1/n^2

 上記式に従って、A産業とB産業のマーケットシェアの分散(σ^2)を計算すると以下の結果になる。

A産業 σ^2:0.0125
B産業 σ^2:0.1375

 A産業と比較して、B産業の方が各4社のマーケットシェアの分散が大きいため、既存企業間のマーケットシェアの差も大きいと考えられる。そのため、マーケットシェアの分布の形状もA産業よりB産業の方が、裾野の幅が広くなっている。なお、マーケットシェアの平均値(μ)は、企業数が同じのため、A産業とB産業いずれもμ=0.25になる(μ = 1/n)。

【練習問題4】

(1)出荷集中度と生産集中度の違いを述べろ
 小田切(2001)によると国内出荷量と国内生産量の関係は以下の通り。

(A)国内出荷量=国内生産量ー自家消費・使用ー輸出+輸入

 国内出荷量を用いた出荷集中度の場合、輸入製品も含む国内市場で取引される全製品に基づく集中度になる。一方で、国内生産量を用いた生産手中度の場合、国内市場で取引される輸入製品を含まない上に、国内市場で取引されない自家消費・使用や輸出を含んだ集中度になる。

(2)市場の集中の実態を見る場合、出荷集中度の方が望ましいと考えられる理由を述べろ

 国内市場の場合、上記(1)-(A)の関係式によると国内出荷量を用いた出荷集中度の方が、輸入製品を考慮しているため、国内生産量に基づく生産集中度よりも国内市場の競合関係を正確に表していると考えられる。そのため、市場の集中の実態を見る指標として、生産集中度よりも出荷集中度の方が望ましいと思われる。


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