【新しい産業組織論(小田切宏之)】 第6章練習問題

 第1~5章に引き続き、小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)(以下、小田切(2001))の練習問題を解きました。小田切(2001)の練習問題を解き始めたきっかけは、別の記事にまとめているので、ご興味があれば、ぜひ読んでみてください。


1.小田切(2001)第6章の概要

 「第6章 戦略的参入阻止とコミットメント」では、潜在的参入企業を考慮した生産量決定型寡占モデルを紹介している。前章のコンテスタブル・マーケット理論では、価格決定型寡占モデルを使って、企業の参入・退出を分析していたが、それを生産量決定型寡占モデルで行っている。
 企業の戦略変数が価格から生産量に変わることで、モデルが意味する帰結が異なってくる。例えば、コミットメントの重要さである。既存企業に実損が生じないコミットメントでは、潜在的参入企業はから脅しと判断して、市場に参入する。そのため、企業参入後に行動を変えることが既存企業にとって損になるようなコミットメントが必要なことが分かる。
 また、情報の不確実性がある場合を検討しており、一括均衡や分離均衡といった新しい均衡概念を定義している。
 社会的厚生の観点から企業数が過剰になる過剰参入定理を示して、政府が特定市場への参入を規制して企業数をコントロールすることが望ましくなる可能性を理論的に示している。

2.第6章 練習問題の解答

 解答の都合上、各練習問題をいくつかの小問に勝手に分けているので、原文とは表現が異なります。

【練習問題1】

(1)「参入を阻止するためには、潜在的参入者に与える脅威が信頼するに足るものでなければならず、このためにはコミットメントが必要である」という命題について、コミットメントとは何を意味するかを明らかにしつつ、説明しろ。

 生産量決定型寡占モデルで潜在的参入企業の存在を考える。既存企業は、潜在的参入企業に対して費用優位性(C_1<C_2)があるとする。既存企業が潜在的参入企業の参入を阻止するために価格をC_2に設定し、参入以降もそれを維持する(シロスの仮定)とする。
 しかし、一度、潜在的参入企業が参入して生産量q_2を生産すると、既存企業は生産量q_1(価格がC_2になる水準)を生産しつづけることが最適ではなくなる。潜在的参入企業は、シロスの仮定が妥当でないことを見越して参入を選択する。
 そのため、既存企業は潜在的参入企業の参入を阻止するためには、潜在的参入企業の参入以降に行動を変えると損になるような投資を参入前に行い(=コミットメント)、行動を変えないことを潜在的参入企業に信じさせることが必要になる。

【練習問題2】

(1)シュタッケルベルグ・リーダーとはどのようなことか述べろ。

 生産量決定型複占モデルにおいて、1社が先に生産量を決定して、もう1社はその生産量を前提に自社の生産量を決める場合をシュタッケルベルグ・モデルという。そのモデルで、先手で生産量を決める企業をシュタッケルベルグ・リーダーという。

(2)既存企業がサンクとなる設備投資を参入に先立っておこなうとき、参入を受容したとしても、シュタッケルベルグ・リーダーとなって、クールノー均衡におけるよりも高い利益を上げられるのはなぜか、述べろ。

 生産量決定型複占モデルで、費用条件の情報が完全のため、企業は相互に相手の反応曲線が分かる。シュタッケルベルグ・リーダーの企業は、競合企業の行動を予想して先に生産量を決めるため、サンクとなる設備投資で決定した生産能力の範囲において利潤を最大にできる生産量を選ぶことが出来る。そのため、クールノー均衡よりも高い利益を上げられる。

【練習問題3】

(1)一括均衡と分離均衡とはどのように違うか、述べろ。

 既存企業と潜在的参入企業を考える。潜在的参入企業は、既存企業の費用関数に関して不確実な情報しかない(取りうる値と確率分布のみを知っている)場合を考える。便宜的に、既存企業は、高費用企業と低費用企業の2つの可能性があるとする。

 一括均衡とは、既存企業が、潜在的参入企業の行動を考慮しても、高費用企業と低費用企業いずれであっても同じ行動を取ることが得になるため、結果として達成される均衡が同じになることを指す。

分離均衡とは、既存企業が、潜在的参入企業の行動を考慮すると、高費用企業である場合と低費用企業である場合でより多くの正の利潤を得られる行動が異なるため、結果として達成される均衡が異なることを指す。

(2)低費用企業が一括均衡を嫌って、利潤最大化レベル以上の生産量を生産することがあるのはなぜか述べろ。

 既存企業が高費用企業であっても低費用企業であるかのように振る舞った方が得なため、潜在的参入企業は既存企業が費用条件に関係なく市場に参入するケースがあり得る。そのとき、既存企業が低費用企業ならば、より得な均衡するため、利潤最大化レベル以上の生産量を生産して自身が低費用企業であることを潜在的参入企業にシグナルを送ることがあるからである。

【練習問題4】

(1)顧客奪取効果とは何か、述べろ。

 潜在的参入企業は正の利潤を得られるため市場参入するが、参入によって既存企業の数が増えるため1社当りの生産量が減少することで、社会的厚生が減少することを指す(負の外部性)。

(2)また、このために参入が過剰になるのはなぜか、述べろ。

 固定費を考慮した生産量決定型寡占モデルの場合、規模の経済性がはたらくため、自然独占が社会的厚生を最大にする。しかし、企業の戦略変数が価格ではなく生産量のため、既存企業が利潤最大化行動をとった結果の生産量では正の利潤が生じる。正の利潤が生じる余地があると潜在的参入企業は市場に参入する。すると独占から複占、そして寡占と企業数が増える。新たな企業が参入すると1社当りの生産量が減少して、社会的厚生が減少する。潜在的参入企業は、社会的厚生を考慮することなく、参入を決定するため、結果的に社会的厚生が自然独占の場合よりも減少するため、参入が過剰になる。




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