【新しい産業組織論(小田切宏之)】 第4章練習問題

 第1~3章に引き続き、小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)(以下、小田切(2001))の練習問題を解きました。小田切(2001)の練習問題を解き始めたきっかけは、別の記事にまとめているので、ご興味があれば、ぜひ読んでみてください。

1.小田切(2001)第4章の概要

 伝統的なミクロ経済学では、企業の代表的な戦略変数として価格と生産量に関して考察しています。第3章では、生産量に注目した生産量決定型寡占モデルについて検討しましたが、「第4章 価格決定のベルトラン・モデルと参入阻止」では、価格決定型寡占モデルを紹介しています。企業の戦略変数が異なると市場成果が異なることを教えてくれます。
 価格決定型寡占モデルを拡張して、「製品差別化の程度」と「生産能力制約」がある場合を検討しています。特に製品差別化を導入すると、企業間の価格決定に戦略的補完関係という面白い特徴が出ることが分かります。
 更に発展なモデルとして、企業が「①生産能力の決定」と「②価格の決定」を行う2段階ゲームや既存企業と潜在的参入企業の関係に注目して参入阻止価格戦略を扱ってい。

 練習問題は全部で4つになります。生産量決定型寡占モデルと価格設定型寡占モデルの違いを問う問題が中心です。また、第5章以降で企業の参入・退出を検討する準備として、既存企業と潜在的参入企業の関係性に注目した問題も出ています。

2.第4章 練習問題の解答

 解答の都合上、各練習問題をいくつかの小問に勝手に分けているので、原文とは表現が異なります。

【練習問題1】

1)線形モデルを考え、企業数がnで所与、製品は同質的で、費用関数に企業間で差がないような寡占市場についてクールノー均衡とベルトラン均衡のそれぞれについて、企業数と均衡価格、プライス・コスト・マージン、社会的厚生の関係がどのようなものであるかを述べろ。

<クールノー均衡>
生産量決定型寡占モデルの場合、第3章の練習問題で示した通り、企業数の増加による均衡生産量Q^nと均衡価格P(Q^n)への影響は以下ようになる。

小田切(2001)第4章練習問題①

 企業数の増加によって均衡価格は、完全競争均衡に近づき、プライス・コスト・マージンも結果的に低下していく。社会的厚生も企業数の増加とともに改善する。企業数が十分に大きくなれば完全競争均衡に一致する。

<ベルトラン均衡>
 価格設定型寡占モデルでは、ある企業A社が限界費用より大きな価格p1を設定した場合、その他の企業はp1-εの価格設定をするとA社の需要を奪える。但し、A社はp1-δ(ε<δ)に価格を設定することで再度、需要を奪うことが出来るため、価格競争が起きる。その価格競争は、価格が各社共通の限界費用と一致するまで続く。そのため、企業数n≧2において、均衡価格は限界費用になり、プライス・コストマージンは発生しない。また、企業数n≧2ならば社会的厚生も一定で、常に完全競争均衡と一致する。

(2)また、製品が差別化されているときには、結論はどのように変わるかも述べろ。

 製品が差別化されている場合、同質的ではないため、企業の戦略変数が価格であれ生産量であれ、価格が限界費用と一致することは無い。製品差別化の程度に依存するが、企業数が増えても均衡価格は限界費用よりも高く、プライス・コスト・マージンも生じる。また、社会的厚生は完全競争均衡と一致しない。

【練習問題2】

(1)企業数が2社の場合の反応曲線は、生産量決定型では右下がりであるのに対し、製品差別化がある場合の価格決定型モデルでは右上がりである。これはなぜか、説明しろ。

 生産量決定型複占モデルの場合、2社の生産量の合計が市場供給量になり、その市場供給量に従って市場価格が決定する。片方の企業の生産量が増加すると市場価格が下がる。そのため、もう1社は市場価格を維持して利潤を維持しようというインセンティブが生じて、生産量を減らす。そのため、2社の反応曲線は、一方の生産量が増加した際に、自社の生産量を減少させる戦略的代替関係になる。

 製品差別化された価格決定型複占モデルの場合、2社が生産する製品は同質的ではないため、それぞれの企業が直面する逆需要関数は以下のようになる(θは、製品の差別化の度合いを決めるパラメータ)。

小田切(2001)第4章練習問題②

式変形して需要関数を求めると以下のようになる。

小田切(2001)第4章練習問題③

 第2企業が価格を上げると第2企業の製品の需要が減り、生産量も減る。第2企業の製品の価格が上がって生産量が減ると、第1企業が直面する需要関数は右側シフトして、同価格でもより多くの生産量を購入して貰える。そのため。2社の反応曲線は、一方の価格を上げた際に、自社の価格も高くする戦略的補完関係になる。


【練習問題3】

(1)クレップス=シャインクマンは「数量の先決とベルトラン競争はクールノーの結果をもたらす」という題名の論文を書いているが、この題名が何を意味しているか述べろ(数量の先決、ベルトラン競争、クールノーの結果、という3つの言葉がそれぞれ何を意味しているか明確になるように答えろ)。

 企業が「①生産能力の決定」を行い、その後「②価格の決定」を行う2段階ゲームを想定する。数量の先決とは、2段階ゲームの第1段階で、生産能力を決定する(=生産数量の上限が決まる)ことを指す。
 第2段階で、第1段階で決めた生産能力を所与として、各企業は他社の価格を考慮しつつ、自社の価格を決定するベルトラン競争になる。
 上記2段階ゲームの結果は、生産量決定型寡占モデルで、全企業の推測的変動λ=0とした場合(クールノーの仮定)の均衡であるクールノーの帰結と一致する。

【練習問題4】

(1)「参入がブロックされた」および「参入が阻止された」とは、それぞれどのようなことを指すか。

 既存企業と利潤があれば市場参入しようと考える潜在的参入企業を考える。「参入がブロックされた」とは、既存企業が潜在的参入企業の存在を考慮しないで自社の利潤最大化のみを考えて行動し場合でも潜在的参入企業の利潤が正にならず、市場参入が起きないことを指す。一方、「参入が阻止された」とは、既存企業が利潤最大化のみで行動すると潜在的参入企業も市場参入により正の利潤を得られるため、参入阻止を目的に行動することを指す。

(2)それらはどのように違うか、議論しろ。

 「参入がブロックされた」場合は、既存企業の利潤最大化条件を満たすが、「参入が阻止された」場合は満たしていない。そのため、後者の既存企業は、利潤最大化のために価格を変更するインセンティブを持つが、変更した場合、潜在的参入企業の市場参入を許すことになる。

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