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息子にHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を打ちました

 マーガレットこどもクリニックの院長の田中純子です。
 先日、息子がHPVワクチンを接種しました。男の子なのにHPVワクチン?と疑問に思われる方もいると思います。接種に至った経緯と思いを記します。

「僕は子宮頸がんにはならないよね?」
長男が不思議そうに言った

その晩、夫と私は息子たちのワクチンの予定について話していた。
 夫「何のワクチン?」
 私「HPVだよ」
 夫「???」
 私「子宮頸がんワクチンだよ」

そして話を聞いていた長男から出た質問だ。
「僕は子宮頸がんにはならないよね?」

(息子よ。よくぞ聞いた)
と思いながら、私は答えた。

「そうよ。子宮頸がんにはならないよ。子宮は女の子にしかないからね。
子宮頸がんになるのは、『ヒトパピローマウイルス(HPV)』っていうウイルスに感染するからなの。そのヒトパピローマウイルスを防ぐワクチンなんだよ。
 男の子も感染すると、のどや肛門のがんになることがあるから、ワクチンを打つんだよ。それに君から他の人にうつすのも防げるからね。

 子宮頸がんは毎年3000人の女性の命を奪っている。特に20ー30代の若い世代への感染も多いことからマザーキラーと言われている。

 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は性交渉で感染し男女ともに生涯で一度は80%の人が感染するごくありふれたウイルスだ。HPVワクチンは、発がん性の高いHPVの感染を防ぐことにより、子宮頸がんを予防する。そして、子宮頸がんのみならず、男性の尖圭コンジローマや肛門がん、男女ともに咽頭がんなどの抑制効果もあることが分かり、アメリカやイギリス、オーストラリア、カナダといった国では男の子へも公費での接種が行われ接種が進んでいる。これまでに世界で8億回以上接種されている。

 HPVワクチンの接種は接種をした本人だけではなく、非接種者への感染予防効果があることが報告されている。男性への接種は男性に対する直接効果だけではなく、感染を防ぐことで間接的にパートナーを守ることにもつながる。その逆もしかりだ。男女ともに感染するウイルスを、女性だけではなく男性にも接種することは最も影響を受ける女性を守ることになる。

 私の母も子宮頸がんで人生が変わってしまった一人だ。母は50代で発症。発見されたときにはそこそこの大きさもあり、リンパ節転移もあった。当時医学生だった私は、母が近いうちに亡くなることを覚悟した。手術を経て、抗がん剤治療と放射線治療を行い、母はなんとか命をつないだ。しかし、その後にも腸閉塞、術後の足のリンパ浮腫、転移再発、繰り返す抗がん剤によるしびれ、味覚の鈍麻、心臓ペースメーカーの挿入が必要になるなど、母の人生の後半はがんとともにあり、今も続いている。それでも命がつながっただけでも奇跡だと思う。
 

   HPVワクチンが母の若い頃にあったならば、防げたかどうかは分からないが、その可能性はある。もし、母が子宮頸がんにならなかったら、もっと、やりたかったことや行きたかったところがあっただろう。日々のしびれや足のむくみ、治療の痛みや苦しみはなかっただろう。

 私自身、年齢の問題から効果が高くないことも承知の上で、接種を済ませている。将来、息子達がワクチンを接種せずに防げるはずのHPV感染によるがんになったら、また、さらに将来、息子達を介して、息子がパートナーにHPVを感染させ、その子に何かあったら、とてもとても悲しい。きっと深く後悔すると思い、今回我が家では自費接種に踏み切った。
  
 接種時期については、もう少し待っても良かったが、中学生になるときっと忙しくなり、今よりコミニケーションも難しくなる。また、もう少しと思っていたら、あっという間に数年経ってしまい、その時に間に合わないこともあるやもしれない。HPVワクチンは感染する前に打つことが大事なのだ。

 長男は話をした数日後に、HPVワクチンを接種した。ちょっと痛がったが、接種後はケロリとして元気だ。

 国内ではHPVワクチンは女の子に対しては、積極的勧奨が再開され、そして2023年から9価のHPVワクチンが定期接種化されることが決まった。しかし、男の子については現在まだ定期接種化への道は見えておらず、9価ワクチンの男性への適応もない。
 
また、女の子も接種率がまだまだ低い状況が続いており、WHOが目指す子宮頸がん撲滅には日本では大きな隔たりがある状況だ。

 この状況を打破するためには、ワクチンの必要性を1人でも多くの人に知ってもらう事、そして、性別に関わらず接種できる人から接種をしていき、守られている子を一人ずつ増やすことが大事だ。

 母のように苦しむ人、それよりさらに辛い思いをする人を1人でも減らしたい。
 息子の接種はほんとに小さな小さな一歩でしかないが、こうした一歩が少しずつでも増えていけば、きっと救える命があると信じている。
 だから、ここに私は息子の接種記録を記した。接種を迷っている方の後押しに少しでもなればと思う。

当院の看護師森山が娘にHPVワクチンを打ったときのことはこちら


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