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「土日が休み」って、誰がそう決めた?

アイスランドで試験的に週休3日制度が導入され、「ものすごい成功」を収めているのだそう。

上の記事によると、給料は据え置きのまま週の労働時間を5時間から6時間ほど削減した結果、労働者はストレスの軽減を実感し、ワークライフバランスが改善されたと主張しているとのこと。
ちょっと考えてみれば、当たり前な気もするが。


それでも、やはり週に3回休めるというのは大変魅力的に聞こえる。もう1日休みが増えれば旅行にも行きやすくなるだろうし、習い事だって選択肢が増える。家事や雑事に忙殺されて折角の週末にリフレッシュできない、なんて事態も減るだろう。

一方で、「週に3回も休んで会社や仕事がしっかり回るのかな?」と不安になったり、「ただ怠けようとしてるだけなんじゃないか?」と訝しんだり、「週休3日」という提案にネガティブな感情がつきまとうのもまた事実。

「週休3日」がありがたいように聞こえたり逆に不安になったりするのは、「休日は週に2回」という認識が、わたしたちの中で当たり前になりすぎているからではないか?
もしも週3回しか働く必要のない社会で「明日から週4回働いてください」と突然決められたなら、労働者のモチベーションは大きく下がってしまうはず。

現在、日本を含めた世界の多くの国や地域では「(完全)週休2日制度」が採用されている。
シフト制の職場で働く人やフリーランスの人など、必ずしも全員に当てはまるわけではないが、それでも「労働者は週に2回休む」のが当然だと考えがちだ。
けれども、本当にそうなのだろうか?


土曜日と日曜日を休みにする習慣が始まったのは、産業革命期のイギリスだといわれている。
それ以前は「週6日労働」が当たり前で、休日は宗教的な理由から日曜日のみだった。

『旧約聖書』で神が天地を創造した際に7日目は休まれたことから、ユダヤ教徒は週の7日目=土曜日が安息日とされている。
キリスト教では「イエス・キリストの復活」などの宗教上重要なイベントが日曜日に集中していることから、日曜を「主日」と定めた。その後ローマ皇帝コンスタンティヌスが「日曜休業令」を発布し、キリスト教では安息日の代わりに主日=日曜日が休日となった。

そういうわけで、キリスト教国であるイギリスも日曜を休日にしていたわけなのだが、工場などでは休み明けの労働者の勤務態度が”だいぶ良くなかった”らしい。
休日にしこたま酒を飲んで2日酔いの状態でやって来るのは日常茶飯事、また当時は職人が月曜に休むのが慣例となっていたため、そうした職人向けの娯楽の方へと行ってしまい、そもそも出勤しない人もいたのだそう。
そうした状況をなんとかするべく、労働組合は土曜日を休日にすることを主張。「道徳的に望ましい」との理由で土曜休日化を主張する宗教団体の活動や、閑暇を商機ととらえたイギリス国内のレジャー業界の台頭なども相まって、徐々に土曜日を休日にする工場が増えていったのだという。


世界で初めて組織的に週休2日制を採用したのは、アメリカの自動車王・ヘンリー・フォードであるとされる。
フォードは労働者がより多くの余暇を確保することで消費を喚起し、経済のさらなる発展につながると考えた。彼が社長を務めたフォード・モーターでは1926年から、「1日8時間・週5日」の40時間労働制を導入。これが大成功を収め、以後多くの製造業がこの制度を後追いで採用した。


日本では1876年に初めて、官公庁で土曜半休、日曜休日制度が定められた。
当時はすでに欧米諸国の多くが同様の制度を採用していたことから、交易の面で欧米とズレをなくしていくことが目的で定められた。
これが庶民にまで行き渡るのはもう少し遅く、ようやく1900年代に入ってからのことだった。

そこからさらに時代は下り戦後。
1965年に松下電器(現在のパナソニック)は、日本企業で初めて完全週休2日制度を導入した。
当時社長であった松下幸之助は、米国視察の際に現地の労働者の働き方に衝撃を受け、「週の2日を休みにし、片方を休養に、もう片方を文化的活動に充てよ」という目的で改革を断行。
当初は労働組合からの大反対にもあったそうだが、制度導入後も松下電器は業績を順調に伸ばした。
これを見て他の企業も次々に完全週休2日制を採用。1987年には労働基準法が改正され、国家的に労働時間の削減に取り掛かるようになった。1992年には官公庁で完全週休2日制が導入され、2002年には全国の公立小学校で土日休みが定着した。


こうして歴史を振り返ってみると、現在からみれば当たり前のように思える「週休2日」も、ここ数十年のうちに普及していったものに過ぎない。
人は現在自分が置かれている環境を、永続的なものと錯覚しがちだ。
もしかしたら、数十年後には週休3日が当たり前になっているかもしれない。それだけでなく、今現在賛否両論おかれている副業やフリーランス、パラレルワーカーなどの働き方も、今と全然違う立ち位置になっているかもしれない。

今現在の環境が、自然な状態だとは限らない。常にゼロベースで考え、よりよい社会のあり方みたいなのを考えていくのが大事だと思う。

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